「期待してない分だけ、引いて見てしまった」アリータ バトル・エンジェル うそつきカモメさんの映画レビュー(感想・評価)
期待してない分だけ、引いて見てしまった
ジェームズ・キャメロンと言えば、エモーショナルなストーリーと、先鋭のビジュアル。数々のメガヒットを生み出してきた巨人ですが、この映画では、脚本とプロデューサーを兼任。本当なら監督はロバート・ロドリゲスなのに、先頭に彼が出てくることに軽い違和感を感じてもいます。一時期ひどかった、スティーブン・スピルバーグ提供とか、製作総指揮みたいな、かんむりの付いた作品が乱発されたことを思えば、この作品のレベルを少しでも高く見せようとする情報操作に見えます。その時点ですでに嫌な予感がするうえに、あの少女の瞳。ハードなアクションを台無しにするアンバランスさ。見に行くのをためらうほどだったのですが、公開時期の絶妙な飢餓感。『アクアマン』と、『キャプテン・マーベル』の間に持ってくるという、オタク映画好きから搾れるだけ搾ろうみたいな作戦がうかがえます。
見終わって思ったのは、非常に残念な出来栄えだったということ。すごく良くできたアクション・エンターテイメントなのに、一過性の、消費されてしまう存在に落ちてしまったことです。『T2』も『タイタニック』も、『アバター』も興行成績を塗り替えるヒットを記録し、ここ最近はマーベルの新作映画が、次々に興行成績を更新していき、「入りやすい」状況を作り出しておきながら、おそらくこの映画は、更新どころか続編の検討も頓挫してしまうのではないでしょうか。
ラスボスの存在をほのめかし、続編の期待をあおる展開は、もはや近年のビッグ・バジェット、フランチャイズ作品にはつきものの常とう句のようなもの。うんざりします。
さて、肝心の内容についてですが、ネタバレが嫌な人は読み飛ばしてください。いちおう見ても問題ないような表現にとどめておきますが、欠点ばかりあげつらうような内容になっています。
----------------------以下ネタバレ------------------------------
致命的に弱いのが、戦いの痛みが伝わらないこと。ソフトな表現を志向し、子犬を殺すシーンなんかは意図的にカットされていますが、主人公がサイボーグ(らしい)ということで、身体の一部を切られたり、殴られても血の一滴も流れません。それに近い演出はありますが、自分の心臓を差し出すシーンは本来もっとエモーショナルな演出があってしかるべきなのに、なんの感情の動きもありませんでした。この場合、映画的な演出としては必ず対比物を置いておくという不文律がありますが、それを意図的にしたくなかったのか、忘れたのか。苦しさが伝わらない分、達成感もそれほど感じません。例えば、泳げない人間がそばにいることで、主人公が水中で特別に活動能力が高いことが伝わり、弱いものを守ってやることで強さが伝わるという法則です。細かくは省略しますが、多くのシーンでそれが守られていないので、どのくらい痛いのか、どのくらい苦しいのか、今一つ伝わってきません。
主人公の彼女は、記憶がなく、なぜか戦闘能力が異常に高いという設定ですが、これに誰もツッコミを入れないので、「そんなものか」という感想にしか結びつきません。謎に頭がいいとか、運動神経がいいとか、必ず驚く人がいて説得力と魅力が生まれるのです。唯一、チョコレートを食べるシーンがその貴重な情報を提供するシーンでした。あとは良くも悪くも戦いのシーンばかり。
それに、全体的に情報量が多すぎて展開も早く、連続ドラマシリーズのダイジェスト版を見ている心境です。主要な登場人物だけで10人以上いて、そこそこストーリーに絡んでくるので一つ一つのエピソードが軽くなりがちです。さらには、ラスボスの登場が最後に意味ありげにほのめかされたので、ちゃんと終わっていません。ちょっとがっかりしました。
破滅を迎えた後の、人類が暮らす「ディストピア」映画は他にもたくさんあり、ビジュアル的な新鮮味にも欠けます。『レディ・プレイヤーワン』と『ゴースト・イン・ザ・シェル』を融合して、『ブレードランナー2049』をふりかけたような絵づらは、既視感のかたまりです。
それでも、期待値よりは高かったので、☆は3つ。続編が公開されても、もう見にいくことは無いでしょう。
2019.2.25