「スイミーを、日本でやったらこうなった。」万引き家族 とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)
スイミーを、日本でやったらこうなった。
是枝監督の作品を全部見ているわけではない。
『誰も知らない』『そして父になる』くらいだ。だから、あくまでこれら3作品を見て思うことだが。
是枝監督は、高給取りのスーツ系が嫌いなんだろうか?
これら3作品では、彼らは、家族を自分の思うとおりになる存在として扱う父/子とうまく付き合えない父と、それに従うしかない母/子に虐待してしまう母(塾漬け虐待母・身体暴力母・行方不明のまま放置する母)として描かれる。
野々宮父しかり。北条父しかり。柴田父の場合は、柴田母の方がパワーを持っていそうだが、亜紀が行方不明でも探さない。たんに、柴田母の尻に敷かれているだけではないであろう。柴田父なりに、自分の思うとおりにならない亜紀を、どこか放置したいのではないか。
警察も冷たい。役目がら仕方がないけれど。自分たちの正義を押し付けるだけ。
ゆりは、偽柴田一家を家族として描いているのに、そこはスルー。ゆりについていた身体傷は不問なのだろうか。
祥太の、元の家族は捜索願を出さなかったのだろうか。
それに対して、
お金をなさそうで、ちゃらんぽらんで、世間からは見下されそうな人々が、子どもを子どもとして扱い、気持ちを汲み慈しむ。賢父母ではないが、慈父母を体現する。
まるで、彼らの方が人間らしい気持ちを持っていると言わんばかりに。
是枝監督は、
社会で”勝ち組”となるためには、人間性を殺さなければなれないと言いたいのであろうか。
経済的成功よりも大切なものがあるよと。
もし、偽柴田家が、スーツ組として働きつつ、あの家族構成で暮らしていたら、映画はどんな感想になるのだろう。
実際に、被虐待児を養子・特別養子として受け入れて育てていらっしゃる方もいる。
もし、炎天下、車に放置されていた子どもを見つけたら、雪降りだしそうな夜にベランダに放置されていた子どもを見つけたら、私たちはどうするのだろう。
店に届け出て車の持ち主を呼び出してもらう、警察に伝えて家に入るようにしたうえで、児相に連絡をお願いする。それで、責任を果たした気になるのかな?なるのだろう。
(関係者ではないけれど、児相や子ども家庭支援センターの名誉のために書いておくが、足立児相と葛飾児相なら、ゆりのように”発見”された子どもはそのまま帰さない。帰したとしても、学校・こども園他と情報共有して経過観察する。件数が多くて、職員がそれに見合うだけいなくて、”小まめに密着”と言うわけにはいかなくて、一般ピープルには歯がゆいけれど。何もやっていないようにすら見えるけれど。この映画の舞台の荒川児相は関係したことないけれど、近隣だし、似たように動いているのではないかな)
「犯罪でつながっていた」のは、映画以外のソースで知った偽治と偽信代の関係。
他は、社会の中で居場所を探して寄り集まった人々。勿論、子どもの祥太とゆりは連れてこられているが、ここに残るのを決めたのは祥太とゆり。「選ばれちゃったのかなぁ」と偽信代が嬉しそうに言う。
まるで、初枝をスイミーにして、その周りに集まって大きな魚ならぬ家族を形作って、社会を泳ぎ渡っていたように見える。
スイミーは、大きな魚から身を護るために寄り集まって暮らすことにした。
この家族は、この構成員は何から身を護るために寄り集まっていたのだろうか。
そして、その生活を続けていくために必要だったのが万引き。
偽治は、日雇いに行きたがらなくって、一家の長ならもっと働けよと思うが、生活保護は受けていない。働けると見なされて受けられない?執行猶予付きではまともなところでは働けない。
偽信代は、クリーニング店で働いている。クビになるけど。
初枝は、一人暮らしと偽って、年金もらっているけれど、同居者がいるともらえる額が減るのであろうか。現時点では暮らしていけるほどの年金はもらえていない。生活保護は、持ち家がネックになっていて受給対象者にはなれないのだろうか。柴田家にはお金をせびりに行っているけれど、恐喝しているわけではない。不倫女は元夫の年金もらえていいわねぇ、私がもらうはずだったのにくらいの愚痴は言っていそうだが。
亜紀は風俗で働いている。初枝にとって孫扱いだから、生活費の負担はしないことになっているのだろうか。
でも、それでも生活費が足りない。その分を盗むのであって、盗みを働くために集まっているわけではない。
偽治は働きたくなくて万引きしている可能性はある。
偽信代は元々手癖が悪い可能性もあるし、同僚もやっていたから、職場環境に慣れちゃったのかもしれない。
初枝はパチンコ屋でのことは万引き。
祥太はそういうものだと教えられていた。ゲーム感覚もあったのかな。「悪いことじゃない」と教わってきたのに、「妹にやらせてはいけないこと」と教えられる。周りの子と違う自分。学校に行かない自分。もっといろいろと学びたいのに。周りを気にすることなく、駄菓子を買う子ども達。万引きしなければいけない自分。
ゆりは、おにいちゃんと同じことをやって、皆と同じになりたいだけ。
犯罪を行うことで、家族を維持するしかないけど、経済的に余裕があったら、万引きはしなかったろう。
反対に、万引きで家計を助けているこの家族が実は全部血縁者であったら、また感想が変わるのだろうか。
その日暮らしだから、毎日は基本楽しい。というか、ない現状を踏まえたうえで楽しむ工夫をしている(音だけで楽しむ花火)。
多くは望まない。から必要最低限だけを”得る”(メリットで我慢とか)。
そういう彼らの日常を見せたうえで、物語は大きく舵を切る。
潮時ではあったのであろう。
初枝を隠したって、初枝を訪ねてくる民生委員はごまかせない。
祥太に関しては、慈母だけでは社会でやっていく力はつけられない。だからの、偽信代の言動?実は賢母でもあった。辛いけれど、祥太のために手放した?
と、祥太だけは、これからの道が広がっているようには見えるけれど、
結局は誰も幸せになれる気がしない結末。
こんな生き方で良いのかと投げかけられているような。
人の繋がり、家族の意味、社会での居場所の意味を投げかけた作品。カンヌは好きそう。
でも、鑑賞後感はあまりよくない。監督の狙いどころなんだろうと思うのだが。
ただ、どなたもおっしゃっているが、役者はすごい。
警察官の高良氏、池脇さんがものすごく勿体ない気がしたが、
ああ、安藤さん、フランキーさんに相対できるのは、このお二方しかいないよなと思う。とくに、あれがアドリブだと知った後からは。アドリブにアドリブで返す必要が生じたら半端な役者では太刀打ちできない。
緒形氏ももったいないが、樹木希林さんに相対できるのはこの方しか。
森口さんは『八日目の蝉』での役とかぶる。
そんな役者たちの中で、子役の城君、みゆちゃんがいい味出している。これからが楽しみ。
(ノベライズ未読)
(2025.9.30訂正)
とみいじょんさん、コメントありがとうございます!とってもよく分かります。安藤サクラのボクシングのは、単に私がボクシングが好きなので見ました。でも安藤サクラさん過ぎて、でもよく頑張ったしよかったかな。あまりうまく言えませんが、とみいじょんさんとおんなじような感覚だと思い嬉しかったです。ありがとうございます
コメントありがとうございます!確かに!安藤サクラさんのあざとさというかいつもおんなじ(と、勝手に思っているだけですが)雰囲気が苦手です。でも池脇千鶴さと彼女、逆にしたら確かにおっしゃる通りだなと思いました。キャスティングの難しさと面白さと意外!って大変で怖くもあり難しいですね

