「手放しで評価できない愛の形」万引き家族 Kanaさんの映画レビュー(感想・評価)
手放しで評価できない愛の形
犯罪や虐待とは無縁の環境で育った自分にとっては、この映画がどこまで現実に起こり得ているのかは分かりません。ただ、良い意味でも非道徳的な意味でも、正解の押し付けがない素晴らしい映画だったと思います。
まず、登場人物一人一人に心を置けませんでした。出てくる言葉は優しいのにいざとなったら見捨てられそうな不安感が常にあり、映画の終わりまで「この人は良い人なのか?」と考え続けました。でも結局答えは分からず、それこそがこの映画の魅力の一つである「人間らしい人物たち」だったのかなと思いました。
家族たちが警察に捕まってしまった時、映画にのめり込んでいた私はすっかりあの家族の形が好きになっていて、それが正しい愛であるかのような気持ちになっていたため、家族の詳細を知りもしない警察たちの尋問シーンで嫌な気持ちになりましたが、実際、警察の手によって家族が引き裂かれた時、勉強に興味のあった少年は学校に行けるようになり、夫婦の過去の犯罪やおばあちゃんのがめつい部分が暴かれたりと、一気に世間一般の「正しい」視点に戻されました。周りから見れば、あの夫婦は少年の学習する権利を奪いましたが、それは彼らに学がなく子供時代をどうあるべきか、どこに引き渡せば少年を救うことが出来るのか判断することが出来ず、万引きの技術を教えることが最善の賢い選択だと自他共に思い込ませていたのだと思います。
同時に、あの夫婦は間違いなく一人の少女を虐待から救いました。再び虐待家庭に戻された後、謝れと母親に言われて頑なに謝らなかったあの子は、もうすでに虐待の連鎖から断ち切られ本物の愛と、外の世界を知っています。彼女をあの母親が虐待することは本当の意味ではもう二度と出来ないでしょう。
また、私がこの映画で最も気に入っているシーンは、父の言った「何か役割がないとあの家に居ずらいだろ」です。学がない人が、本や学びからではなく経験からのみで出される鋭い人間性を垣間見せるその台詞がとても胸に残りました。
この映画はどんな受け止められ方をしても正解だと言えるほど、良い教育教材であると思うので、いずれ全国の教育機関で生徒たちに観てもらうようなものになればいいなと思いました。万引きは犯罪ですが、きちんと作中で良くないことだと案じるシーンもありますし、羅生門を高校生たちに読み聞かせるぐらいなら万引き家族を観せた方が何倍もタメになると思いますね。