「陰翳礼讃」万引き家族 odeonzaさんの映画レビュー(感想・評価)
陰翳礼讃
「鴨川で野犬が群れている・・」きっと飼い主に捨てられたのだろう。いたいけない子供への虐待、絶え無い「いじめ」、名のある企業の不正隠蔽、強欲な経営者・・・。日々、心痛めるニュースばかりに接しているので映画にまでして観る気になれなくてスルーしてきた。特に不幸な子を見るのは耐え難い。
本作の2年前にカンヌで同様のパルムドールを受賞した「わたしは、ダニエル・ブレイク」も貧困、社会的弱者を扱ったものだったが清貧を貫き、狡猾な社会制度への反骨のメッセージだった。是枝監督は同様な貧困、弱者でありながら、あえて汚すことで清らかさを際立たせる対極の演出で本質に迫っている。
前半の絡まった描写と後半の解しの構成、予想通り辛い前半だが細野さんの音楽で救われる気がした。役者からスタッフまで一級を集めている。
「家族とは、人の絆とは、生きることの矜持とは・・」持ち帰るものは人それぞれだろうが是枝監督のメッセージは間違いなく伝わっていくのではないだろうか。古い黒澤作品で「素晴らしき日曜日」という映画がある、戦後の焼け跡の中の貧しい恋人たちを追った名作だが時代は変わっても人間を見つめる温かく厳しいまなざしは日本映画の中に受け継がれていると実感させられた。
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