「空疎な作品です」万引き家族 おにぎり山さんの映画レビュー(感想・評価)
空疎な作品です
すごく頭でっかちな映画だと思います。
ひりひりする貧しさというのはあんな緩いものじゃないです。
もっと心の奥から出てくる言葉があるはずなんです。すごい貧しさというのは・・・
体感がない頭でっかちだから、一つ一つのシーンに必然性と強さを感じない。現代日本の貧困問題を頭で解釈しようとする人は、納得するかもしれませんが、作為的に作られた貧しさというか、実態とは似て非なるものという印象を受けました。
貧しさから來る、本当の切実さというのはあんなものではないです。だから、本当に心に響く言葉がないんです。
「貧しさ」を表現するのを商売にしてはいけません。というか極めて下手くそで不誠実な商売だと感じました。
おそらく、これが本当の家族だったら、もっと暗くて深刻だったのではないでしょうか…⁉︎
多分、治も信代も心のどこかでは、こんなモン長くは続かね〜だろっていうのがあって、これは実際に海水浴の時に初枝もボソッと口にするセリフでもあるワケですが…
ある意味、この家族ごっこというかママゴトというか、偽の寄せ集めの家族が、本物ではないせいでやめようと思えばいつでもやめれる気楽さもちょっとあったりする中で、家族全員がそれぞれに責任の軽さがある中で、出てきた‘‘緩さ’’なのではないかと思いました。
でも、それでも後から入ってきたりん(本名じゅり)には、それが本物の家族に見えていたんだと思います。
冬の寒い夜の中、治に助けられてから、この家族と過ごした時間はきっとりんにとってかけがえのないものだったと…
だから自分も仲間になりたくて、この家族の役に立ちたくて、誰の助けも借りずに一人で万引きしようとします。そしてそれが、もう悪いコトはしたくない祥太の無理なかっぱらいに繋がり、この家族を終わらせるきっかけへとなっていきます。
じゅりに戻ったりんの本当の両親は、相変わらずのクズ親で、母親は理不尽に「ごめんなさい」を言わせようとしますが、りんはそれを強く拒否します。
信代から、好きとか愛してるっていう気持ちは、こうやってギュッと抱きしめるコトで表すんだよって教えてもらった事で、りんは少し強くなれたんだと思いました。
最後の方で、相変わらずりんはドアの外に閉め出されていて、状況はあまり好転していないのだとうかがわせます。
そして、また治や信代達がやってきて、あの楽しかった家族のいる家に連れ出してくれないかなという望みをにじませつつ塀の上から外を眺めるりんの、表情を捉えたシーンでこの映画は終わります。
とても心に残る映画でした。
もしあなたが本当の貧しさを体験されてきたなら、そうなのでしょうね。自分は普通に映画として楽しめましたが、そう言われて見るとそんな気がしないでもありません。