「押し寄せる感情の渦」万引き家族 flying frogさんの映画レビュー(感想・評価)
押し寄せる感情の渦
妻と2人で見たが、鑑賞後は2人とも1時間ほど言葉が出なかった。
安直な解釈や感想を拒絶するような映画。
要素としては貧困や虐待といった現代社会の病巣に対する怒り、といったものはあるのだろう。
しかし本作では、治や信代、初枝にも、観客から糾弾されて然るべき過去や行動があり、一筋縄ではいかない。
結末にしても、子供2人の末路は対照的で、この「家族」が子供にとってどんな存在だったのか、についても容易な解釈を許さない。
彼らの過去もすべてが語られるわけではないので、この「家族」が成立した経緯がすべて分かるわけではない。例えば亜紀がなぜここで暮らしているのかも、よく分からない。
でも、物語の各場面で、それぞれが抱える感情は痛いほど伝わってきた。逆にそこから彼らの過去を推理するような造りの映画。
4番さんとの亜紀、終盤の正面からの長回しシーン(特に信代!)、ラスト近くのバスの車内での祥太、ラストシーンのじゅり、いずれも感情の渦がスクリーンから飛び出してくるようなシーンだった。
子役2人は他では見たことがないほど自然な演技。これは是枝監督の得意技なのだろう。
松岡茉優はとても良かったが、この俳優陣の中ではまだ少し引いているというか、遠慮しているように見えた。物語中の亜紀の立場の不明確さがそう見させたのかもしれないが。
樹木希林とリリーフランキーは安定感抜群。
安藤サクラは…圧巻。
分かりやすく懇切丁寧に監督の意図を見せる映画ではなく、善悪や真偽も判然としない、いわば人生の不条理そのもののような映画だが、画面から溢れる感情の渦に身を任せれば、自分なりの結論は自然と得られる、そんな映画だった。
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