劇場公開日 2018年9月29日

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運命は踊る : 映画評論・批評

2018年9月18日更新

2018年9月29日よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかにてロードショー

判りやすく迎合するばかりの安易な映画を退ける監督の覚悟に圧倒される

20歳でイスラエル軍レバノン侵攻に加わった体験をベースに監督デビュー作「レバノン」を放った気鋭サミュエル・マオズ。8年ぶりの長編「運命は踊る」もまた自らの経験をヒントにしているという。彼の長女は高校時代、寝坊の常習犯でその度にタクシーを呼んでいた。バスで登校をと命じた朝、バス爆破テロが起きた。一時間後、人生最悪の時間を耐えた父の下、バスに乗り遅れたと長女が帰宅した。その時、無事を喜んだひとりは、無事でない乗客たちのいたことをあっけなく忘れている。が、そんな身勝手を他人事と責め得るか――。そう自問して沈黙せざるを得ない人と世界をめぐる痛烈な皮肉と真実を監督マオズの新たな長編はじわりとあぶり出す。そこに沈殿する怒りも悲しみも愛も憎しみも超えて運命の、歴史のダンスは繰り返される。結局、起点へと戻るフォックストロット(原題)のステップを踏み続けるように――

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緻密な3幕構成で紡がれたマオズの映画は戦場の息子の死を知らされた両親をめぐる挿話で幕をあげる。そのきんと張りつめた切迫感に実は当初、とまどった。とりわけ父ミハエルの感情をかみ殺し押さえつけ、それでも頭をもたげる痛みを蛇口の熱湯に手を差し伸べて傷を焼き切るように耐える姿、それをみつめ続ける映画のテンションをもてあました。建築家として成功したミハイルの住居は、完璧に整っていて寒々しく、その意匠の研ぎ澄まされ方も映画への抵抗感を助長していたかもしれない。が、後になってあの冷たい時空、それこそを一幕目の人の心の景色として確信犯的に構築している監督がいたのだと気づいてみると、判りやすく迎合するばかりの安易な映画を退ける彼の覚悟に圧倒されずにいられなくなる。

らくだがぽかんと通過するいきなりな第二幕。そこでは監督の闊達な視覚センスが冴える。仲間の兵士3人と国境の検問所を守る息子ヨナタンの日常の夢遊感に満ちた描写。どこまでも高く青い空の下、銃を相手に繰り広げられる唐突なダンスの官能。そうして傾いた自閉的空間に押しこめられた若者の物語が第3幕、再びテルアビブの両親の物語へと帰り着き、思いがけない皮肉がふりだしを召喚する様。「私たちが住む狂った世界にふさわしい物語」を容赦なく仕掛ける監督の、パーソナルで同時にみごとに普遍的な眼差し、その厳しさは幕切れの後、いっそう鮮やかに記憶を刺し貫いていく。

川口敦子

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