「リアリティに欠ける」IT イット THE END “それ”が見えたら、終わり。 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)
リアリティに欠ける
音響と映像で怖がらせるだけの作品で、大人が見るとあまり怖くない。大音響と画面の切り替えだけでは最早怖がらせることはできないと知るべきだ。
第一作は思春期のいじめられっ子たちがペニーワイズが繰り出す様々な恐怖に打ち勝つ話で、青春群像としてそれなりに見られたが、本作品はその27年後という設定で、つまり主人公たちは略40歳くらいになっている訳だから多少なりとも胆が据わっている筈だし、鈍感にもなっている筈だ。それが子供の頃と同じように怖がるのは無理がある。怖がるのは登場人物たちだけで観客はちっとも怖くない。
さて子供たちが自分たちをルーザーズ(負け犬たち)と呼んでいたのは自嘲の意味合いも込めたアイロニーだと思う。いじめっ子がいるからいじめられっ子がいる。いじめはコンプレックスと虚栄心の成せるわざであり、いじめがなくならないのは、人間がコンプレックスと虚栄心から自由になれないからだ。
そんなことは大人になれば大方理解していて、つまらないことで人をいじめたりしなくなる筈だ。ところが本作品の主人公たちは、大人になっても昔のような罵り合いを繰り広げる。ホラーにするためには怖がらない大人だとうまくいかないから、人格的に子供から成長していない設定にしたのかもしれないが、リアリティに欠ける。
続編だからといって同じホラーのジャンルにしなければならない訳ではない。ペニーワイズが子供にしか見えない設定のままでよかったのではないか。次々と殺される子供たち。集まった主人公たちにはペニーワイズが見えない。さて何ができるか。いいアイデアと上手いプロットがあれば本作品よりもいい作品が出来たと思う。本作品は大人の姿になったが中身は子供のままの主人公たちが第一作と同じように活躍しただけの作品だ。
せめて冒頭のシーンの暴漢の台詞「これがデリーだ」という同調圧力に満ちた右翼的な言葉の意味くらいは回収してほしかった。