「僕たちは“それ”を乗り越え、もう忘れない」IT イット THE END “それ”が見えたら、終わり。 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
僕たちは“それ”を乗り越え、もう忘れない
恐怖、悲しみ、苦しみ、不安、憎悪…。
その呪われた町で子供たちが恐れると、“それ”は襲い来る…。
そして、“それ”が再び…。
2017年、スティーヴン・キングの代表小説を初映画化し、同氏原作映画で最高のヒット、ホラー映画歴代最大のヒット、日本でも21世紀になってから公開されたホラー映画で一番のヒットと、記録ずくめと話題になった前作。
待望の続編にして完結編。
個人的にも嬉しい事が。我が地元の映画館で洋ホラーが上映されるのは、おそらく2005年の『THE JUON/呪怨』以来。『死霊館』も『IT』前編も上映せず…。今秋非常に見たかった一本だったので、またレンタル待ちにならず、劇場で観れただけで感激…!
27年前、力を合わせて“それ”を倒した“ルーザーズ・クラブ”。
7人の内、6人が町を離れていた。
ビルは脚本家に。
ベバリーは結婚。
リッチーはコメディアンに。
見知らぬ顔が一人?…と思ったら、あの太っちょベンはマッチョなイケメン社長に!
などなど、それぞれの人生を。
…が、各々決して幸せとは言えない。
未だ何かに縛られているかのよう。
そして忘れていた。ルーザーズの友情や誓いを。
27年も経てば無理もない。皆、自分たちの人生を背負っている。
だが、おかしい。妙にあの頃を忘れ、覚えていない。
ただの忘却や疎遠じゃない。何かが…。
そんな時、町にただ一人残ったマイクから連絡が。
“それ”が再び…。全ては、倒したと思っていた“それ”の原因だった…。
故郷に集うルーザーズ。
と同時に、恐怖が甦る。“それ”と恐怖がまた襲い掛かる。
仲間の一人に悲劇が…。
27年前の誓いを果たすか、この恐怖から逃げるか。
苦悩・葛藤しながらも、ルーザーズは再び“それ”と対峙する。決着の時…。
27年ごとに甦り、襲い来る“それ”。
設定の期待通り、27年後、大人になったルーザーズ。
子供時代の前編、大人になった後編と2部作にした面白味。
子供時代は同じキング原作の『スタンド・バイ・ミー』風の青春ドラマだったが、今作は苦渋のドラマ風。
子供時代と現在が交錯し、より重層的に。
ホラー映画ではドラマ部分がないがしろになりがちだが、前半はドラマ要素に比重が置かれていると言っていい。
見始めは、成長したルーザーズが誰が誰やらでちと困惑。
でも、すぐ子供時代と今が重なり、見慣れてくる。(ベンだけは仰天だが)
ジェームズ・マカヴォイ、ジェシカ・チャスティンら実力派のビッグネーム。
このキャスティング、子役たちに成長したら誰に演じて欲しいか、その希望が実現したもの。
何とも粋で、贅沢!
前作の愛おしいルーザーズの子役たちも新撮シーンがあり、彼らにまた会えたのも嬉しい。
だけどやっぱり、ペニーさん!
今回も神出鬼没ながら、登場する度にインパクト!
悪趣味、悪ノリ、グロは前作増し! 強烈ユーモアは、もはやブラック・コメディと言ってもいいくらい。前作で味を占めたか…?
今作ではかつての素顔を見せたり、クライマックスでは仰天な姿になったりと、さながらペニーワイズ・ショー!
予告編でも使われた風船で空を歩くシーンは、何だか妙な美しさすら感じた。
ペニーワイズが誘う、不可解で奇っ怪で奇妙で不気味でイカれた、現実か幻か分からぬ悪夢のような世界。
劇場3時間で体感すると、頭がクラクラ…。
実際、見終わっての第一声は、「疲れた~」だった。
そう、ホラー映画としては異例の長尺、169分! これでも原作既読者の感想によると、はしょられている点も多いらしい。原作、どんだけ長いの!?
さすがに見る前は身構えるが、いざ見始めれば、飽きる事はない。
ホラー映画の上に、じっくりのルーザーズのドラマ、グロやブラック・コメディ、仄かなラブ、ラストの仰天展開まで、とにかく大ボリューム!
今回も賛否は分かれそう。悪趣味全開のグロ描写もだが、ラストのSFもしくはダーク・ファンタジー的な展開やモンスター・ムービーなバトルは、怖い正統派のホラー映画を期待した人には、何じゃこりゃ!? まるでハリウッド版『学校の怪談』。
だけど、その昔見たTVムービー版もこんな感じだったような事をうすらぼんやりと思い出した。
チープでB級チックでもあり、沢山の要素や好きなジャンルを詰め込み混ぜた、キングのごった煮!
だからこの『IT』が、キングの代表作と言われる所以。
そういや今回、遂にご出演もしてたね。
確かに前作の方が、怖くもあり作品としても出来映えは良かったかもしれない。
でも、本作も本作でいい感じに締め括られている。
子供時代のトラウマ。
それは怖い。
思い出したくもなかった。忘れていたかった。
大人になった今もそう。
だけど、ずっと目を背け、背を向け続けてはいけない。
大人になるという事は、それと対峙、乗り越えなければならない。
でないと、いつまでも囚われたまま…。
何も自分だけの為じゃない。
ルーザーズの永遠の友情。犠牲になった友たちの為にも…。
もう彼らを絶対に忘れない。いつまでもこの心に覚えている。
ありとあらゆる方法で僕たちを恐れさせてきたペニーワイズ。
ひょっとしたら、一番恐れていたのは寧ろ、ペニーワイズ自身だったのかもしれない。
僕たちはもう怖くない。
僕たちは“それ”を乗り越えた。