「既視感のあるシーンの連打が惜しまれる」IT イット THE END “それ”が見えたら、終わり。 アラカンさんの映画レビュー(感想・評価)
既視感のあるシーンの連打が惜しまれる
字幕版を鑑賞。2年前に公開されたスティーブン・キング原作の「IT それが見えたら終わり」の続編で、完結篇である。監督はじめスタッフも同じで、初めから続編を作る予定で前作を撮っていたらしく、成長が早い年代なのに、前作の少年たちがそのままの姿で登場していた。
キングの原作は 1986 年に書かれたもので,この物語の不気味なピエロ・ペニーワイズのモデルになったのは,1970 年代に実在した連続殺人犯で,子供の気を引こうとピエロの格好で町内のイベントなどに現れていた連続殺人鬼ジョン・ゲイシーである。ゲイシーは資産家の名士でチャリティー活動にも熱心な模範的市民だと思われていたが,アルバイト料の支払いなどの名目で呼び寄せた少年に性的暴行を加えたうえで殺害し,その遺体を自宅地下および近くの川に遺棄した男で,その被害者の数は 33 人にも及んでいた。
ジョン・ゲイシーを感じさせるものはピエロの格好以外には一切なく、本作が実在の連続殺人事件を想起させるものはほとんどなく、完全に非現実な化け物である。前作から 27 年後の話で、少年少女たちはすっかり大人になってしまっていた。中にはかなりイメチェンしてしまった人物もいて、最初は子供の時との対応が取れずに戸惑ったが、子供の頃の回想がふんだんに織り込まれており、作りが非常に丁寧なので、徐々に対応が取れて来た。
一人だけ故郷に残った黒人のマイクが昔の仲間に連絡を入れ、ペニーワイズの打倒が完遂しておらず、新たな犠牲者が出始めたから戻って退治するのに協力を請う。この 27 年の間に、マイクはペニーワイズの調査を行い、封印するための儀式などについても調査を進めていたが、そんな儀式で収まってしまっては映画として面白くないだろうと思って見ていたら、期待を上回る波乱の展開で非常に楽しめた。
前作と同様に一人一人が抱えている恐怖対象と向き合わされ、一人一人のエピソードを丁寧に描いていたために、3時間近い非常に長い映画となっていてたが、中だるみすることなく緊張感が保てていたのは評価できた。だが、ペニーワイズに一切の同情の余地がなく、ひたすら邪悪な存在で、犠牲者は何の落ち度もなく、何の理由もなく命を奪われているのであるから、どのようなオチが待っているのかとワクワクしていたら、案外カタルシスのない結末だったので、かなりがっかりした。
役者はそれぞれ好演していたと思うが、あまり少年時代の面影がない人が多かったのは少し問題だと思った。あと、原作者のキング本人が古物商の店主役で出て来たのには驚いた。かなりの台詞のある役で、ベストセラー作家を揶揄するような話をしていたのが非常に受けた。
音楽は前作と同じ人で、非常に的確な音楽を書いており、怖がらせる効果に音楽が果たした役割は非常に大きかったと思う。全てが明らかになった後で、各人物に寄り添うような曲想の曲も見事だと思った。
演出についてはかなり問題があると思った。怖い映画として知られている数々の名作から頂いたようなシーンがやたらと目についたのである。少し思い出しただけでも、「シャイニング」「クリスティーン」「エルム街の悪夢」「遊星からの物体X」「エイリアン2」など、既視感のあるシーンが続いた。これらをオマージュと考えればいいのかも知れないが、こうした演出は、作品の独創性を損ねてしまうのが避けられないので、独自路線の演出を貫いて欲しかったと思った。
(映像5+脚本4+役者4+音楽5+演出4)×4= 88 点