「夫婦で鑑賞するには相当な覚悟が必要」天才作家の妻 40年目の真実 よねさんの映画レビュー(感想・評価)
夫婦で鑑賞するには相当な覚悟が必要
1992年のある朝、老作家ジョゼフ・キャッスルマンの寝室の電話が鳴る。それはノーベル文学賞受賞の知らせだった。狂喜するジョゼフとその妻ジョーン。夫妻は息子マイケルも伴って授賞式が行われるストックホルムへ旅立つが、機中でナサニエルと名乗る記者に声をかけられる。何かを知っている様子のナサニエルはストックホルムで再びジョーンに話しかける。しばしの談笑の後ナサニエルは彼が調査の末に辿り着いたある推論について語り始めるが・・・。
ストックホルムで授賞式を待つ数日間とジョゼフとジョーンが出会った1958年からの10年間が交錯する物語。晴れの舞台というのに散髪もしないジョゼフ、彼の健康を気遣いそっと寄り添うジョーン。ナサニエルが投げかけた言葉に呼応するようにホテルの床を転がる胡桃、スイートルームに並べられたジョセフの著作、ジョーンがふと見つめる腕時計に刻まれた刻印が二人の本当の姿を過去から引きずり出す一部始終がとにかく圧巻。思わずティム・バートンの『ビッグ・アイズ』を連想してしまいますが、それと歴然とした差をつけるのがグレン・クローズの存在感。クライマックスで見せる胸の内をかき乱す複雑な想いを言葉ではなく表情で語る熱演に身震いしました。
若き日のジョーンを演じているのはグレン・クローズの娘アニー・スターク。女性蔑視があからさまな時代に翻弄される女性像を見事に体現しています。もちろんジョセフを演じるジョナサン・プライスも見事で、子供のような無邪気さの向こうに見え隠れする驕りや弱さを少しずつ露呈していく演技にイライラさせられますが、その苛立ちは映画を観終わると自分に襲いかかってきます。
今の時代においても普遍的な何かを深く考えさせられるずっしり重い作品、夫婦揃ってのご鑑賞には相当な覚悟が必要です。