「タフな精神力に脱帽」ロンドン、人生はじめます 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)
タフな精神力に脱帽
タフな精神力はドナルドのことではなく、すぐに癇癪を起こすドナルドや自分勝手なマンション組合の夫人たちを相手に、怒りもせず投げだしもせず、どこまでも正面から向き合うエミリーのことだ。これほど愛情深く親切で穏やかな女性はそうはいないだろう。おまけに正直である。70を過ぎてこのような女性を演じられるダイアン・キートンは流石である。歳を取ったら脳内のセロトニンが減少してキレやすくなることは一般に知られているが、こんな風に穏やかでいられるのは或いは努力次第かもしれない。
さて、ストーリーはかなり単純で、ロンドン郊外の高級マンションに住む未亡人のアメリカ人と公園内に家を建てて住み着いている年配のアイルランド人男性との麗しき恋物語である。
随所に笑いと罪のない駆け引きがちりばめられていて、笑えるし、泣ける。ドナルドが思いがけなく見せるインテリゲンチャの側面に驚いたり、エミリーの写真の才能に感心したりする。
マイブームで市民運動をする気のいい若者や四角四面なのにユーモアを感じさせる判事など、面白い登場人物には事欠かない、ホンワカしたヒューマンドラマである。ブレグジットで経済も社会も揺れているイギリスだが、こういう映画が作られるのは、まだまだ民衆の気持ちに余裕があるからだろう。
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