「丁寧に描かれた、ままならなさを抱える少女たち。」志乃ちゃんは自分の名前が言えない ゆめさんの映画レビュー(感想・評価)
丁寧に描かれた、ままならなさを抱える少女たち。
志乃と岡崎さんが友情を深めていく2人のシーンの美しさよ…。
あそこの美しさが本作は何より印象的だった。
志乃と岡崎さんの素朴で真っ直ぐな声と音で奏でられる「あの素晴らしい愛をもう一度」やミッシェルガンエレファントの「世界の終わり」、ブルーハーツの「青空」も良かった。
主人公・志乃は吃音が原因で自分をうまく認められないことから周囲とうまくいかない。
吃音という症例を知っている身からすると、彼女の症状は「吃音」であるのは明らかなんだけど、本作では「吃音」という言葉は一度も出てこないんだよな。
たぶん観客に「症例」という意識を作り出さないための作り手のあえての意図なんだろうと思う。
志乃は別に特別な存在ではなく、自分の肉体にままならなさ(これは多かれ少なかれ誰にでもある)に悩み傷つく「普通の多感な女の子」なのだと。
志乃が話したくても言葉が継げない様子はとてもリアルだった。本人と一緒に私も歯がゆさを感じながら観ていた。
(あと先生や母親の吃音への無理解も歯がゆい。)
志乃だけでなく、岡崎さんのままならなさ、菊池の苦しみも丁寧に描かれていたのが良かった。
特に菊池に対しては志乃たち同様イラっとすることが結構あったけど、彼も自分じゃどうしようもなくて、どうにか良い方向に持っていこうともがいているのがわかるのが良いよね(客観的に見れば良い方法ではないのだけど、それを菊池が自分ではわからないということがわかる人物描写…)。
ラストまで志乃の吃音は治らないし、岡崎さんは歌がとても上手くなったわけではない(きっとたくさん練習はしたのだとと思うが)。菊池はクラスにうまく溶け込めたわけではない。
それでも、それぞれがそんな自分を少しは受け入れらたのかな?と感じさせる終わりが良かったと思う。
しかし薪田彩珠ちゃんの役者としての存在感は毎回すごいなと思う…。
意識しなくても不思議と目が持っていかれる役者さんだ。