「あの木、好き!倒れても育ってるから(ムーニーの言葉)」フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法 talismanさんの映画レビュー(感想・評価)
あの木、好き!倒れても育ってるから(ムーニーの言葉)
フロリダの蒸し暑い夏、ディズニーの側にあるという、どぎつい色でハリボテみたいでキッチュとも言えない建物が並んでいるその一画にモーテルがある。プールだって洗濯機だってエアコンだってWifiもあるけど部屋代は週払いっていうところで、このモーテルの住人がどんな層なのかわかってしまう。ムーニーのママ(ヘイリー)の友達アシュリーのようにダイナーで働く母親もいれば、ヘイリーのように卸売りでニセブランド香水買ってディズニー観光客に高値で売りつけて「働く」母親もいる。ヘイリーだって働いていたけれど変な事を求められ断ったらクビ!1回だめになったら這い上がるのが難しい社会の中で下に溜まってしまう人々。そういう人達が集まって住んでいるモーテルだから、定期的にフードトラックがやってきて無償でパンなど食べ物を配る。しっかり者のムーニーは必ず3袋受け取る。
ムーニーがダイナーで好きなものを美味しそうにコメントをつけながら食べるシーンが好きだ。ひたすら食べる顔アップ。ママのあったかい目線なんだろう。「ストロベリーとブルーベリーの同時食い!」とか「フォークが飴でできていたらいいのになあ」とか「妊婦だったらふくれたお腹いっぱいになるまで食べてみるんだ!」とか。生意気で野蛮な言葉使いをする女の子だけど、食べてるときのムーニーは本当に可愛い。そんな上機嫌ムーニーを見つめながらママの顔は珍しく暗い。その理由は後でわかるけど。
ヘイリーにとって友達の存在は本当に大切だった。そのことをアシュリーから絶交されて初めて気がついた。夜中にベッドから出て床で何度もジャンプするヘイリー。それは彼女の部屋323号室の真下の部屋がアシュリーの部屋223号室だから。会いたい、話したい、どうして?っていう、彼女流の悲しみと寂しさの伝え方だったんだろう。
モーテルの管理人ボブ役がウィレム・デフォーというのは意外だったけどとても適役だった。ボブはとっても忙しい。住人からの部屋代徴収、プールの掃除や管理、外壁塗り、監視カメラで住人や不審人物のチェック、洗濯機の修理。いたずらっ子達のこともよく見ている。粗大ゴミ処理の時の使えないバイト役がケイレブ・ランドリー・ジョーンズ!気の毒で笑えた。
あんなに気が強いムーニーが友達に別れを告げる為に来て、涙を沢山流して大泣きする顔に心が痛くなった。子ども達には大人にはできないことがある。手を繋いで一緒に走っていくこと。すぐ側なのに今まで一度も行ったことがなかった夢の国へ!目指すはあのお城なのか・・・。今度はこっちが泣きたくなった。