「鮮やかな色彩と閉塞感がいや増す物語の対比が強い印象を残す一作」フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法 yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
鮮やかな色彩と閉塞感がいや増す物語の対比が強い印象を残す一作
本作の翌年公開の『WAVES/ウェイブス』(2019)と同様、フロリダの鮮やかな色彩で彩られた作品です。一方で本作が語る物語は決して陽気なものではなく、むしろ徐々に生活が追い詰められていく母娘の状況に、息が詰まってくるような感覚を覚えます。この点も『WAVES』と共通しています。なぜ追い詰められていく家族の物語の舞台としてフロリダを選び、なぜこのように背景設定が似た作品が短い間隔で相次いで登場したのか、何らかの背景や事情かあったのか気になるところです。
主人公、ムーニー(ブルックリン・キンバリー・プリンス)の母親ヘイリー(ブリア・ビネイト)は奔放な性格で、娘を育てるためにほかの人が躊躇するような仕事でも引き受けてしまいます。その言動を「毒親」と断じることは簡単ですが、なぜヘイリーがこのような状況に追い込まれたのか、その経緯を語る序盤のセリフを踏まえて考えておきたいところ。
そうした彼女らの状況を知ってか知らずか、小言を言いつつも見放さない、ホテルの支配人ボビー(ウィレム・デフォー)は、いわゆる「善人キャラ」ではあるんだけど、仕事をこなす中で問題を抱えた住民の世話もする、という「なんとなく感」が良い感じに物語の緊張感を和らげています。約束事を守らないことに激昂する様はきっちり怖くって、でもため息をついて後始末を黙々とこなす…、このような演技はデフォーだからこそ説得力が備わっているのでは、と感じました。
結末近く、ムーニーの夢中な顔を眺めるヘイリーの目の表情、そしてその後ムーニーが感情を爆発させる場面は痛切の一言です。疾走感のある結末は、彼らの夢や空想じゃないといいなぁ、と切に願いました。