「夢の国にも現実にも同じ虹は架かるけれど…」フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法 ありきたりな女さんの映画レビュー(感想・評価)
夢の国にも現実にも同じ虹は架かるけれど…
街中のどこを切り取ってもフォトジェニックなフロリダの街は、こども達の視線からは、終わりのない探検を続けられる「夢の国」のようにワクワクに満ちている。
それでも彼ら彼女らもきちんと「おとな」に成りかけていて、現実の厳しさやおとな達の困難を全部ではなくとも、肌で感じ取っている。
「大人が泣き出しそうな時がわかる」って、ムーニーに言わせてしまう世の中は残酷だと思ったし、最後になって泣き出してしまうムーニーに私たちはなす術もないことを実感する。
母親であるヘイリーは若くして厳しい現実にぶち当たるけれど、それをムーニーにはわからないように自分ができることを全うしようとしてるんだよね…少々言動が下品で激しいところは気になるけれど、後半になると少しずつ八方塞がりになっていく様が本当に現実的で、見ているこちらもしんどさがある…
お金を稼ぐためにはモラルも何も言ってられなくて、楽しそうに水着で自撮り〜とかホテルのご飯で好きなものを食べさせたりとか、その辺りの彼女の決意が滲んだ一瞬の表情がとても悲しかった。
それでも、管理人のボビーが現実や秩序に板挟みになりながらも、モーテルのおとなやこどもに向けるまなざしの優しさとあたたかみに救われるし、ヘイリーがモーテルの洗濯のお姉さんと抱き合うシーンでは泣きそうになってしまった。
ムーニーが最後に助けを求めたのは「新入り」だったジャンシーで、あのラストには賛否両論起きそうだけど、
フィクションが現実に太刀打つには、映画が現実社会にできることは、という観点で考えると多少なりとも意味が見出せるような気がする。
私の好きな漫画家である今日マチ子さんが前に「厳しすぎる現実に立ち向かうには、甘やかな想像力が必要なのではないか」というような旨を話されていたことを思い出した。
物語はドキュメンタリー調に淡々と進んでいくにもかかわらず、静かに現代アメリカの貧困をリアリティをもって見せていく。ムーニーたちは本当にフロリダで生きて生活を営んでいると感じるくらいに。まさに見せていく「だけ」なのだ。映画が唐突に終わるように、その後どうするのかは私たち一人一人に委ねられている…鮮やかな色調と明るいフロリダの空とは裏腹に、突きつけて来るものはとても重い。