「“夢の国”のすぐ傍で…」フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
“夢の国”のすぐ傍で…
開幕早々、元気いっぱい遊ぶ子供たち。
と言うより、悪戯。毎日何かしらやらかして、周囲を困らせてばかり。
安モーテル住まいだけど、子供たちにとっては遊び場。
ここは、フロリダ。ディズニー・ワールドのすぐ傍。
眩い真夏のフロリダの陽光、カラフルなモーテルの外壁…。
美しい映像と“夢の国”がすぐ傍という雰囲気が、何処かファンタジーの世界に居るような錯覚を醸し出す。
しかし、決してハートフルでハッピーな作品ではない。
子供が主人公でもキッズ・ムービーの類いでもない。
子供の視点から描かれる、アメリカ貧困層の厳しい現実…。
よくアメリカ映画で描かれる貧困層の暮らし。
トレーラーハウス住まいや本作のようなモーテル住まい。
日本ではなかなか馴染み無いが、ネットカフェ生活みたいなものか。
帰れる家も無い。定住も出来ない。
モーテルと言う事は、家賃を払わなければならない。
住人たちも全員が仕事をしているとは思えない。失職した人々、職に就けない人々の集まり。
子供たちも毎日何処かに出掛けては、近隣の飲食店で食べ物を貰っている。
毎日がその日暮らし。
家賃を滞納し、払えなければ…。
一体何人がここを去って行った事だろう。
主人公の少女ムーニーと、その母親ヘイリー。
ムーニーはこのモーテルきっての問題児。
子が子なら、親も親。
モーテルの宿泊客からチケットを盗み、それを格安で売る。
窃盗に詐欺。
時には部屋に男を連れ込み…。
軽犯罪での生計。
それらが徐々に積み重なり、一線を超え…、
社会の不条理と無常がある日突然やって来る。
監督ショーン・ベイカーは3年に渡り実際のモーテル暮らしをリサーチしただけあって、ヒリヒリするくらいリアル。
その過酷な現実と対比するような映像美も印象的。
地元オーディションで選ばれたというムーニー役の女の子、ブルックリン・キンバリー・プリンスが達者な演技を披露。
監督がInstagramで発掘したという母親役のブリア・ヴィネイトもインパクト残る熱演。
だけどやはりキャストで最高の名演を魅せるのは、モーテルの管理人役のウィレム・デフォーだろう。
子供たちには振り回され、住人たちとは家賃を巡って言い争いが絶えない。
ガミガミガミガミ叱ってばかりだが、ただ厳しいだけじゃなく、彼らを見守る人間味ある優しさも滲み出る。
ある時子供たちに近付いてきた不審者を追い払う。
住人たちに何か問題や厄介事が起こると、必ず寄り添うかのように立ち会う。
そして、それが自分の手ではどうしても助けてやれない時見せる苦渋の眼差し…。
劇中だけじゃなくきっと撮影現場でも、この名優は若い監督・スタッフ・無名のキャスト・子役たちを支えていた事が充分伝わってくる。
(それだけに、オスカーは残念! 『スリー・ビルボード』のサム・ロックウェルも素晴らしかった!)
貧しく厳しいながらも、子供たちのキャッキャッと楽しい声の明るい暮らし。
…でも、当然、こんな生活がずっと続く訳がない。
親と子を引き離すのは残酷だ。仲のいい親子ではあるのだ。
が、決していい母親と言えないのも事実。
このままこの不良母親と暮らしていたら、子供にどんな悪影響を及ぼすか…。実際ムーニーはすでに問題児。
どっちがいい悪いとは単純に割り切れない。
だから一層、ラストの展開も含め、いたたまれない。
“夢の国”のすぐ傍で…。
今ここにある貧困の厳しい現実。
ラストが悲しい。
ディズニーランドのそば、実際には子供2人だけで入れる訳はなく。
入ることの出来ない子供たちの現実、モーテル暮らしをするしかない人々の苦しい現実。カラフルな色合い、青い空が対照的でなんか悲しい。