「今年のベスト級。まさかの大穴大当たり」フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法 osanさんの映画レビュー(感想・評価)
今年のベスト級。まさかの大穴大当たり
もしアメリカンニューリアリズム映画というカテゴリーがあったら、その傑作リストにリストアップされてほしい作品。
アメリカ映画のリアリズムというのはなかなか難しい。ありふれたつらい現実が霞むような過酷で強烈な現実が多すぎる。社会問題の最大公約数が1つや2つではなく、あまりに多すぎる。
戦争(中東や西アジア等)、国内テロ、銃のバイオレンス、麻薬、ラテンアメリカとの関係、そしてなんといっても肌の色の問題。映画がリアルで扱う題材に強烈なものが多すぎて、他の国では普遍的な大きな問題である貧困(失業・被扶養者の生活・借金等)のテーマがかすんでしまう。
しかし、映画という芸術の在り方として自由主義経済社会における限り、この貧困の問題に向き合うことは映画の作り手の逃げられない役割の一つであるはずだと思っている。
監督はケンローチなどのイギリスソーシャルリアリズムやイタリアン・ネオレアリズモに影響を受けたとのことだ。とはいえ、時代と国が違うので、欧州系リアリズムとはアプローチが異なる。異なって当然であろう。
焦点はモーテル住まいの母子家庭に当たっている。ただし当て方が子供からの大人に向かうアプローチだ。加えて、モーテルの貧困コミュニティーに視点をさらに広げ、そしてさらに、お隣の夢の国にまで視点を伸ばしていく。
そこで描かれるのは、実は母子家庭とノーマル家庭の差異ではない。同じコミュニティ内の母子家庭間の格差である。これはなかなかむごい現実である。みたところ同じ境遇なのに顕在化してしまう格差。
こういう「目立たちにくい格差」を繊細に丁寧に描いているというところが、すばらしいところだ。
音楽に頼らないという姿勢もなかなか見事だと思った。この手の映画、特に子供中心の映画は音楽に頼りがちなものだ。しかし、ほぼ音楽無しで通している。エンドロールも無音だ。そのかわり、人間同士の諍いやいろいろな雑音が絶えず聞こえてくる。そうなんだよね、生活音こそが実はリアルなんだよねという事実を実感する。
あり触れた貧困を普通に取り上げるこうしたアメリカ映画がもっと増えてほしい。増えるには商業ベースに乗せないといけないのだから、それならまずは自分が鑑賞にお金を出すことから始めることかもな、と思う封切り初日の夜なわけです。