「ゴージャスな画面に比べて官能性が低いなぁ」ファントム・スレッド りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
ゴージャスな画面に比べて官能性が低いなぁ
1950年代の英国・ロンドン。
オートクチュールの仕立屋ウッドコック(ダニエル・デイ=ルイス)は、姉のシリル(レスリー・マンヴィル)とともにハウスを経営している。
仕立ての実務はウッドコック、経営はシリルは分かれているようだ。
天才的な仕立ての技術をもつウッドコックは、自分が理想とするドレスをつくり、それを着せるに相応しい女性を絶えず探していた。
つい先ごろも、その理想的モデルの女性を追い出したところだった。
そんなある日、朝食をとった食堂で理想の女性・アルマ(ヴィッキー・クリープス)に出逢う。
自分の体形を気にするアルマだったが、彼女があげつらう欠点こそがウッドコックにとっての理想の体型だった・・・
というところから始まる物語で、監督のインスピレーションの源泉はヒッチコックの『レベッカ』・・・
というのが、ほとんど冒頭でわかる。
ウッドコックが暮らす屋敷は、『レベッカ』のマンダレー荘ソックリだし、唐突に女性(アルマ)の虜になり、屋敷に連れていくのもそうだし、ウッドコックが亡き女性(『レベッカ』では前妻、この作品では母親)に憑りつかれているのも同じ。
さらには、主人公を庇護する役どころが、『レベッカ』では召使のダンヴァース夫人だが、本作では姉に替わっているだけ。
なので、亡霊のような女性に苦しめられる男のハナシなんだろうと思っていると、ちょっと勝手が違う。
山出しの女性に自分の理想のドレスを着せ、理想の女性にするあたりは、同じヒッチコックでも『めまい』のよう。
けれども、どうにもこうにも演出がもっさりしていて、ゴージャスな衣装や装置にもかかわらず、エロティシズムが足りない。
のべつ幕無し鳴り続ける音楽も癇に障る(あまりにウルサイので、途中ウトウトしたぐらい)。
そうなんだよなぁ・・・
と気が付いた。
この監督の作品、途中で観なくなったのは、舞台設定と比べて、登場人物の人物設定が幼すぎて、底が浅いからだったような・・・
この作品でも、いちばん観たいのは、後半、それまでウッドコックに支配されていた(ようにみえる)アルマが彼を支配しだし、それに対して、ウッドコックも支配されグズグズになるのが心地よいところ。
このふたりの葛藤に加えて、別の立ち位置でウッドコックの精神バランスを保っていた姉のシリルが、どのように変化するか。
そんなところがほとんど描かれていなく、「結果、こうなりました」的なオチな物語では満足できません。
ということで、衣装や装置、撮影などは見どころはあるものの、観せて(魅せて)ほしいところは喰い足りませんでした。