「大いに異論はあるだろうが・・・」アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル いぱねまさんの映画レビュー(感想・評価)
大いに異論はあるだろうが・・・
ハリウッド映画の映像演出の一つである『第四の壁(Breaking The Fourth Wall)』(※グッドフェローズを代表とする)方式を取り入れた、自分が若い頃起こった事件を、当事者達をインタビューしながら再現フィルム化した作品。
1992年にフランスで行われたアルベールビル冬季オリンピック終了後の2年後、1994年に行われたノルウェーのリレハンメルオリンピックが催されるというイレギュラーで特殊なタイミングで起こったアメリカフィギュア界のこれ又奇怪でセンセーショナルな事件は、その事件性とワイドショー的面白さで、瞬く間に世界中を驚かせた、というより、好奇の対象としてこの素材を愉しませた。あの時は只、メディアの垂れ流す情報のみが全てであり、今のネット情報などないから、(否、あったとしてももっと憶測ばかりだろうが・・・)、その真偽を確かめぬ儘、目に見える部分の事実(ライバルの足を負傷させたということだけ)からの推測とその先の決めつけで、幕が閉じた。オマケで、その後のトーニャハーディングは、ボクシングに転向という面白さも提供したのだが、勿論その部分も今作は描いている。
映画と言うよりもテレビ番組の演出に近い今作は、それでもドキュメンタリー要素、そしてコミック要素、歴史解説要素、そしてそのベースにある、所謂『ホワイトトラッシュ』問題に代表する貧困と養育問題、そして経済階級問題という社会問題を如実にあぶり出すテーマとなっている、と、まぁそうなのだが、色々な切り口を見せる、まるで万華鏡のような作りなのである。その証拠に、今作は、とにかくパンチラインというか、押しの強いキーワードと演技、カットが目白押しなのである。『アメリカ人そのもの』、『リンク内での喫煙や、煙草をブレードで消す』、『登場人物全てが救いようのない馬鹿ばかり』、『ボクシングでの殴られて体が回転するシーンと、トリプルアクセルのシーンとのスイッチのシンクロ』、『劇伴のアメリカンロック』等々、これ以上に鑑賞中もっともっと沢山の強いメッセージが叩きつけられ、実際全て憶えることができない。いや、老化の著しく進んだ我が脳のせいではあるが(苦笑
ストーリー展開も、これもハリウッドらしいスピード感で、しかも、もし今事件再現が事実ならば、『小説より奇なり』の如く、やっと溶け掛かった親子の邂逅のシーンを、無残にもぶち壊す母親の裏切り(ワイドショーに金を掴まされたのか、盗聴用録音の発覚)というオチなど、却って感情移入を排する『呆け』のみをぶつけられる、『これでもくらいやがれ』的攻撃に打ちのめされるのである。
その真理は、『真実なんて嘘っぱち』という言葉が全て。関係者全員の記憶は、自分に都合の良い顛末に常に書き換えられる。そりゃそうだ、人間はビデオレコーダー等では決してないのだから。言った言わないの世界は、常に目の前に淀んでいる。それを確かめる術は、今の段階はどこにもない。ドラえもんのひみつ道具『スパイ衛星』が義務化される、ディストピアが訪れる迄は・・・。
まぁ、そんな高尚な作品ではなく、オールドムービーのマルクス兄弟みたいなスラップスティックを愉しむという感じに落とし込めば、やるせない感情も腑に落ちるのではないだろうか。だって、負けん気が強くて、才能があって、でも親に愛されて無くて、貧乏で、でも美人で、しかし人を見る目がない、そして愛情欲求の強い、そんなキャラクターは、どう救えるのか、神様だって分からないじゃないか。