「中毒性の高い上物のブラック・コメディ」アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
中毒性の高い上物のブラック・コメディ
映画の構造としては、こちらも実際の事件を扱い、ニコール・キッドマンが悪女の役を演じた「誘う女」のフォーマットを思い出す。ドキュメンタリー風のインタビューシーンを挟みながら、事件に行きつくまでの真相に迫っていく。そしてこちらの「アイ,トーニャ」はさらに中毒性を高めて、まるでドラッグのように頭にガツンガツンと響いてくるような仕上がり具合。ジャンルでいうなら「伝記映画」よりも「ブラック・コメディ」が圧倒的に近い。
ナンシー・ケリガン襲撃事件の真相と、トーニャ・ハーディングがそれにどのくらい関わっていたのか、の真実は実際のところ当人たちにしかわからないし、この映画がどのくらい正しいのかというのだって実際には分からない。あくまでもブラック・コメディとして私はこの映画の中毒性にしっかりハマってしまったし、この映画もその辺は重々承知で、トーニャに同情的な部分もありつつも、トーニャのことを厳しく突き放したようなところもあって、中立とまでは思わないにしても、うまくバランスはとれていたのでは?という風に思う。それ以上に、まだ存命中の人が過去に起こした実際の事件をこうして大々的に映画にしてしまうというのも相変わらずすごい国だなぁと思う。寝た子を起こすようなものだもの。
ブラックコメディとしての中毒性の高い演出・脚本もさることながら、この映画はマーゴット・ロビーはじめ、オスカー受賞のアリソン・ジャニー含めた演者たちの怪演がまた見応えがあった。熱演とか名演とかではなくて全員が「怪演」しているのがポイント。ポッと出の美人女優扱いで終わる可能性だってあったマーゴット・ロビーが、自身も製作に名を連ねるだけあって鬼気迫る怪演を見せる。女優としての腹が決まったというか肝が据わったのがビシビシ伝わってくるようなパフォーマンスに感服。それに加えて名バイプレイヤーのアリソン・ジャニーがベテランの貫禄と技で場面をかき乱していく。ジャニーが一たびセリフを放つともうなんだか黙って聞くしかないという気分にさせられる。登場していないシーンでもなんとなくジャニー演じるラヴォナの顔がチラついてくるような圧倒的な存在感。役者たちの怪演がまた映画の中毒性を更に高めていたなぁと思う。
こういう映画を見ると、本当に人間にとって「環境」って大事って思う。それは家庭環境だけじゃなくって(寧ろ思春期を過ぎてからは家庭で出来ることは知れているし、家の外の環境の方が影響力が大きい)、付き合う男とか、友人関係なんかが違えば、こうはならなかったのかな?と思ったり。でも家の外で築く環境って、結局は自分で選ぶものだからやっぱり自己責任なんだけどね。