「すごい!のはわかるけどいまいち乗り切れなかった」スパイダーマン スパイダーバース ツァラさんの映画レビュー(感想・評価)
すごい!のはわかるけどいまいち乗り切れなかった
前提として私はスパイダーマン原作未読、映画はサムライミ版、アメージング、ホームカミング、あとMCUしか観てません。一応どんな奴らがいるかネットで調べて知っていました。
今回は原作要素が多かったので(ですよね?)=ほぼ真っ白の状態で観たことになります。
以下感想。
結論から言うと、凄まじい映画体験でした。
3DCGに輪郭線をプラスしたようなコミック調のヴィジュアルに、コミックのような線のエフェクト、鮮やかなカラーエフェクト、単純に動く絵が楽しい!音楽がかっこいい!という体験です。
視覚や聴覚にドーーーンときます。
また、何より一番すごいと感じ入ったのは、他の次元からスパイダーマンが来ました!別の次元ではグウェンがスパイダーマンだったり、白黒だったり、二次元アニメ調だったり、豚だったりします!っていうのが許されるアメコミの土壌!とヴィジュアルの力強さで無理やり成立させているところ!
これは凄まじいと思いました。
個人的な人生観の問題から「IF」の話が嫌いで、アイアンマンとキャプテンアメリカが結婚してます!とか「うわ~……」ってなっちゃうんですが、そんな私ですら受け入れられる豪腕っぷりたるや!
感服してしまいました。
別のピーターパーカーが出てきた時、それじゃ何でもありだよ……と冷めてしまったのですが、まさかそれを受け入れさせられるどころか再び熱を入れて見事に調理されるなんて。
すごいものを観た、という感じです。
いいところは他の人が書き尽くしているでしょうし、気になったところを書いていきます。
といっても点数を見ていただければわかるとおり映画の出来の前には些細なことで、評価が下がるようなものではありません。
更に極々個人的な好みの話になるので、スパイダーバースサイコー!!文句なし!!という方は読まないことをお勧めします。
サイコーです。異論はありません。
観てない方は是非劇場で観てください。
ここからネタバレ有りです。
吹き出しについて
私は映画内の吹き出し否定タカ派なので、少し台詞を文字起こしされることに違和感を覚えてしまいました。かなり少数派だと思います。実際アレルギーの私でも、あそこまで絵や演出をコミック調に寄せられると、流せてしまうレベルでした(正直全部言ってるんだからいるか?とは思ったけどまあコミックに寄せる遊び心として許せる)。
脚本について
これは大作であり失敗できない点と、登場キャラクターが多い点から仕方ないとも言えますが、あまりに工業脚本的というか、対称性が綺麗すぎてしまっていた点です。映画をよく観る方は共感頂けるのではないでしょうか。
シドフィールド的なあれです。
悪役かな、と思ったら悪役。
おじさんってことは……と思ったらドン!
スパイダーマンたちが揃うまでは原作を知らない私からすれば、登場自体が予想外なのでそこまででもないのですが、出揃ってしまってからの畳み方があまりに直線的で予想の範疇を超えてきません。
特に「顔を見ずに手を見ろ」と「ハァイ」に関しては皆さんほとんど使いどころがわかってしまったのではないでしょうか。
私はマイルスと一緒に口に出しそうになってしまいました。
しかしこれは悪い点ではなく、お約束通りやってくれるのはいい点でもあります。ただ、使い方を少しずらしてくれればな、というくらい。
Bパーカーに縛られたのと同じやり方で彼を送り返す、とか、ビルから落ちる演出と覚醒後に昇る演出、キングピンがスパイダーマンを殴る時に家族に見られる、とか、前は引っ張られた電車を、覚醒後は逆に利用するとか、例は挙げきれないくらいですが、本当に開いた本を閉じるように前半と後半で対称になっていたのでオチの付け方までわかってしまうと。
こういうのは少しだと気がきいてるくらいなんですけど、やり過ぎると逆に作り物臭が強烈にしてしまうのが残念です。
材料に関してはどれだけ現実離れしても想像力はついていけるが、構造が現実離れしすぎると、はたと夢から覚めてしまいます。出来過ぎだな!と。
最後に加速器が閉じる時に豚が敵の頭に落とした謎の置物(原作読めばわかるのかな?)がカンッと詰まった時は笑いました。あれくらいさりげないといいのですが、全てがあからさまだと鼻についてしまいます。
とはいえこれも好みの範疇と言っていいでしょう。そういうのが好きな人は好きでしょうから。
マイルスが成長しましたというメタファーに感動する人もいれば、やり過ぎ、やり過ぎっていう人(私)もいるという話でした。
マイルスについて
マイルスが好きになれませんでした。
「てめぇの問題だろ!」おっしゃる通りです。
ピーターパーカーが亡くなったときのMJの台詞やラストでのマイルスの台詞にもありましたが「ピーターは普通の人でした」「誰にでもマスクを被れる」ということが繰り返し言われていたので、文字通りそれがテーマの一つであるから、マイルスは普通の少年でなければならないのでしょう。
「君もヒーローになれる」或いは「どこかの世界のあなたもスパイダーマンかもよ」かもしれません。
ですが私はマイルスが「普通の少年だけどいいやつ」とか「普通の少年だけど賢いやつ」とかに見えず本当にモブみたいな「普通の少年」にしか見えなかったのです。
好きでも嫌いでもないです……最後まで観ても。
「テストに受かっていい学校に入った」と説明されるだけで、アインシュタインを引用したから賢そうに見えるでしょ?って権威を利用した観客に対する「知の欺瞞」では?
その裏ではグラフィティを描いてたりというよくわからん、中身がいまいち伝わってこない奴でした。情報はあるけど実感が伝わってこなかったです。
悪役について
またこれは悪役も同じなのですが……。
体や顔はいいとして、ただの大男が強すぎません?
原作で理由が説明されているのでしょうか。
スパイダーマンと戦う理由も、皆の前で演説するってどんな立場の奴だってのも、家族への執着も全てわからなかったです。
まあなんとなく、大物?みたいなもんでした。
細かく施設の名前とか聞いとけばわかったのかな?二回目は注意深く観てみます。
フランケンシュタインみたいなやつはオクトパスに首掴まれたり、何もしないまま最後に逮捕されてるし。あいつ何だったんだ?
性別や姿が知ってるのと違うのはアメコミあるあるなので、女のオクトパスがいるのを知らなかったのはラッキーと思いました。
ちゃんと驚けた。
こっから先は更に理不尽な愚痴になります。
書かなくていいとも思いますが、人口比にして約2%の私と同じひねくれ者のために書きます。
この映画で素直に笑えたファンの方は気分を害する可能性があるのでもし読まれていたらここまででお願いします。
完全にいちゃもんなので。
「スタンリー」がカメオ出演したら笑ったり、今回で言えば亡くなってしまったので泣いたり、なんらかのリアクションを取らなければファンじゃないとでも言わんばかりのあの劇場の空気が苦手です。
ファン同士の共感作業というか。
私は漫画などで原作者が登場したりする演出が嫌いなので特にそう感じます。
あと、観客が設定された笑い所でちゃんと笑うとことか。
自分がギャグ滑ってんなーと思って観てるから、みんな義務みたいに無理やり声出して笑ってるように感じます。
「この笑いがわかる私」みたいなものをあの人工的な笑いから感じてしまいます。
いや素直に笑ってるんだと思います、穿ちすぎ、ひねくれ過ぎなのはわかってるんですけど。
書いてていちゃもん過ぎて自分でもどうかしてると思いますが、ただ自分が笑えないだけでそう感じてしまうのです。
「デッドプール」でもあった感覚でした。
ただこれはもう劇場という装置と自分の性格の相性としか言えません。
どうもあの一体感が自分にとっては疎外感に転じてしまって苦手なんです。
もしかしたら私が一人で隣がカップルだったから楽しそうなのがむかついただけかも。
その程度のことです。
映画どころか劇場体験の理不尽な愚痴まで色々書いてしまいましたが、この映画が物凄いものであることは確かです。
今度は原作も読み、スタッフも勉強して、二度目、三度目、繰り返し観て、Blu-ray買って、この映画を楽しみ尽くしたいと思います。
いやーまじで本当すごかった。
すごい映画だった。