「W.チャーチル、最初の4週間」ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男 akkie246さんの映画レビュー(感想・評価)
W.チャーチル、最初の4週間
若い頃、シド・ヴィシャスを演じたゲイリー・オールドマンが、ロックと対照的な立場にいる英国の人物をもう一人演じて成功をおさめたことをこの映画をみて確認する。そのことがひとつの奇跡だ。
原題の、「最も暗い時間」とは、朝がくる前の数時間だろう。冬ならば、気温は一日のうちで最も低く、そして草木も眠る丑三つ刻。
この映画は、とても暗い。しかし、欧州最大のピンチに、希望を捨てなかったのがこの太った老政治家だ。
彼は、酒を好み、葉巻を吸い、家をあまり省りみない仕事人間。一見、悪の親玉の様な風貌。自分の党からさえ嫌われており、国王からも恐れられていた。
しかし、彼の長年付き添ってきた妻と子供たちは、その首相就任を心から祝った。チャーミングな部分もあることを家族だけは知っている。
ひとりの新人タイピストが、就任から最初の4週間、一国の首相と行動を共にする。
ドイツやイタリアとの戦争が始まっている。すぐ隣のフランスやベルギーが危機に陥っている。イギリスの首相として最初にして最大の任務は、この戦争を終わらせること。憎むべきヒトラーが指揮するナチスドイツ。友人アメリカはこの時点では助けてくれない。ルーズベルトとの電話会談は、どこまで創作なのかわからないが、友に見捨てられた気分だったろう。一国で戦うべきか、不利な条件でも講和に持って行くか。党はドイツとの講和に傾いている。しかし、国民や国王はどんな気持ちなのだろう。
この作品は、特殊メイクアップが最大限にフィーチャーされているけれども、勿論それは、すごいけれども、着目すべきは、この時代のイギリスや欧州の様子を的確に描いているところのような気がする。戦後72年。戦前のイギリスの様子。
チャーチルが就任した背景として、欧州を威嚇するヒトラーの存在と老人・病人たちが牛耳る議会運営の難しさがあるように描かれている。かなりデフォルメされてはいるけれどもこれに近い状態の組織というのはあり得る。
国王がチャーチル家を訪ねるところや地下鉄のエピソードは出来過ぎのような気もするが、脚本としては面白い。
ただ言えるのは、この映画だけを見ても、ナチスや、ダンケルクの戦いのことは、当時の大多数の人々の如く観客の我々もほとんどなにも知ることはできない。そういうつくりになっている。タイピストが狭くて暗い本部内を案内されるように、我々もこの映画で、歴史のほんの一部だけをうかがい知ることができる。ほんの一部だけだ。
それでも、その一部だけから当時の英国人気質をうかがい知ることはできる。CG全盛期の現在、特殊メイクでW.チャーチルとその時代の忠実な再現に挑んだゲイリーオールドマンと製作陣からとても勇気をもらいました。