「とてもいい映画だが、日本人として見るべき姿勢は別にある」ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男 Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
とてもいい映画だが、日本人として見るべき姿勢は別にある
今年(第90回)のアカデミー賞・"主演男優賞"受賞作品である。ゲイリー・オールドマンの演技、そして似ても似つかないゲイリーの外見を、イギリスの元首相ウィンストン・チャーチルに仕立てた、辻一弘の特殊メイク技術に目を見張る。
ただ単に、顔を瓜二つにすればいいという、作り物メイクではない。どこかしらゲイリー・オールドマンらしさを残している。つまりチャーチルに極めて似ているけどゲイリーなのだ。被り物ではなく、表情の演技ができる余裕を持たせているのも、凄い技術である。
ゲイリーの演技が評価されるのはセリフや身振り手振りだけではなく、表情もあるということが見どころである。
ストーリーは、ウィンストン・チャーチルが首相に就任して、ナチスドイツと徹底抗戦する決断をするまでの短期間を切り取ったもので、歴史的な事実を知ったうえで、その緊迫感を追体験するタイプ。新事実や意外性が飛び出してくるわけでもなく、ツマらないといったらその通りかもしれない。
しかも邦題の違和感がはなはだしい。
まるでチャーチルは、ヒトラーから世界を救った英雄のような…!そんなわけない。どうしたらこういう恥ずかしいタイトルを付けられるのか、原題は"Darkest Hour"である。ため息しかでてこない。
冷静に考えると、日本はこの映画の"敵"側であるということを忘れてはいけない。東アジアの大英帝国の植民地を、次々と侵略していた侵略者である。他人事のように感動している場合ではない。こういう作品がアカデミー作品賞にもノミネートされているということを、むしろ日本人は改めて考えるべきだろう。
当然、昨年の「ダンケルク」(2017)と同時に起きている史実なので、関連して観るとわかりやすい。また英国王としてジョージ6世が登場する。アカデミー作品賞を受賞した「英国王のスピーチ」(2010)では、コリン・ファースがジョージ6世を演じ、その吃音症を克服するようすが描かれた国王である。
本作は歴史を知り、ゲイリー・オールドマンの演技を観るためにある作品。
(2018/3/31/TOHOシネマズ日本橋/ビスタ/字幕:牧野琴子)