「ステロタイプな物語の、完璧な具現化」君の名前で僕を呼んで くーちさんの映画レビュー(感想・評価)
ステロタイプな物語の、完璧な具現化
ギリシア彫刻のような美少年と美青年の一夏の恋の物語。
エリオ(美少年)は、若干17歳にしてイタリア語もフランス語も英語も堪能なトリリンガル、川遊びに興じながら編曲を愉しむミューズのような少年。オリヴァー(美青年)は、ギリシア考古学を専攻する、太陽のように陽気なアメリカ人の博士課程の院生。
……と、設定を書くだけで、気恥ずかしさに思わず顔がにやけてしまう。誰もがどこかで一度は聞いたことがあるような、ステロタイプな物語だ。でも、多分それでいいのだ。この映画に、物語の斬新さや、あるいは深い感動を求めてはいけない。ミューズのような美少年と太陽のような美青年が北イタリアの美しい景観のなかで奔放に愛を語り合う、そんな手垢にまみれたステロタイプな物語を、誰も見たことがないような完璧なビジュアルで再現した点にこそ、この映画の見所がある。
女たちは物語の踏み台。男も、美と知性がすべて。
知性と温かみはあるが凡庸な中年男性そのもののパパによる唐突なカミングアウトは、美の世界から追放され、永遠にそれを手に入れ損なった男の悲哀を物語る。
御親切に、パパは専門家としての権威を発揮しながら、ギリシア彫刻の美の解説までこなしてくれる。彼自身は決してその世界に参入することはできないが、知を司り、エリオとオリヴァーの欲望を権威付けてくれる、最も重要な脇役だ。
深みのある話だとも、もう一度観たいとも思わないけれど、完璧な様式美の世界だった。