「無言の男の秘めたミッション」ファースト・マン つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
無言の男の秘めたミッション
大まかなストーリーはわかっているにもかかわらず非常に緊張感のある面白い作品だった。
アップの多用、早いカット割り、すごい手ブレ映像にドキュメンタリーのような映像と、多くの工夫を詰め込んで魅了したデイミアン・チャゼル監督は、「ララランド」の時に思った魔術師かもしれないという疑惑を確信に一歩近付けた。
主人公ニール・アームストロングは自身の心の内を全く語らないが、それでも彼の想いが透けて見える気がするのは、演じたライアン・ゴズリングの演技力なのかチャゼル監督の魔術なのか、それとも2つの融合なのか、とにかく良いものを見させてもらった。
娘を失ったニールは、その埋め合わせをするかのようにNASAの飛行士に志願し、ジェミニ計画とそれに続くアポロ計画に参加することになる。
厳しい訓練とテストの中で仲間を失い、ニールの喪失感は増していく。
犠牲を払ってでも計画を続行するのか?いいや質問が違う。犠牲が出ているからこそ計画を続行するのだ。
彼らの想いを紡いで月へ行く。行かなければ心の穴はぽっかり開いたままだ。
中盤を過ぎ、作品の方向性が見えたあたりで、おそらくラスト付近で描かれるであろう有名なアームストロング船長の言葉とバランス悪くならないかと心配になった。
脚本のジョシュ・シンガーは有能なのでイケるかなと思ったのだが、やっぱりちょっと上手くいかなかったね。
作品内のニールは喪失、特に娘の喪失が原動力になっているのに対し、実際のアームストロング船長の言葉はフロンティアスピリットによるものと思う。
喪失感と開拓者精神は中々に親和性が低い。
一番目玉になりそうな「有名な言葉」の瞬間に感動出来なかったのは肩透かしで少し残念だった。
とはいえ作品の方向性は全くブレない。
娘の喪失により、危険な月へ向かうミッションの前ですら息子たちと話せないほどに家族と上手く向き合えていなかったニールが、妻と無言で正面から向き合うエンディングは秀逸だ。
娘がいるかもしれない月に降り立った時に、やっと本当に弔うことができた。心を整理することができた。
ニールの喪失感は埋められ、かぐや姫を迎えに行くミッションは終わった。