「自分と他者との距離は、月ほど遠い。」ファースト・マン たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
自分と他者との距離は、月ほど遠い。
アポロ11号の船長として、人類史上初の月面着陸を成し遂げた宇宙飛行士ニール・アームストロングの物語を描く、伝記を基にしたヒューマンドラマ。
監督/製作は『セッション』『ラ・ラ・ランド』の、オスカー監督デイミアン・チャゼル。
製作総指揮は『インディ・ジョーンズ』シリーズや『ジュラシック・パーク』シリーズの、言わずと知れた巨匠サー・スティーヴン・スピルバーグ。
主人公ニール・アームストロングを演じるのは、『ラ・ラ・ランド』に続き、チャゼル監督作に2度目の出演となるライアン・ゴズリング。
第91回 アカデミー賞において、視覚効果賞を受賞!
第76回 ゴールデングローブ賞において、作曲賞を受賞!
個人的に宇宙について興味がないため、アポロ計画などの知識はほとんどゼロ。そんな人間でも楽しめるのか不安でしたが、取り敢えず鑑賞。
結論からいえば、ストーリーに関しては正直つまらなかった。
専門用語も多く入り込みづらかったし、敢えてこのような作りにしたのだとは思うが、脇役のキャラクターが書き割り的で魅力に乏しく物語に入り込めなかった。
しかし、この映画においてストーリーはあまり重要ではないのだと思う。
アームストロング船長が月面着陸に成功したという歴史的事実は誰もが知っていることであり、監督はその物語を描くことに興味がなかったのだろう。
月面着陸に至るまでの物語を深掘りするのではなく、ニール・アームストロングという人物の抱える心の闇とミッション成功への執着に焦点を当てることによって、コンパクトで綺麗な纏まりを持った映画になっている。
ニール・アームストロングを演じるライアン・ゴズリングの演技には流石の一言。
数多の死を経験したことにより、闇をみつめるように月へのミッションへ没入していくようになるニールを演じ切っています。
あのトロンとした、何を考えているのかわからない目が良いです。
彼を月へと突き動かす契機となった娘の死も、語りすぎることなく、映画の冒頭でサラッと扱うのが良い。
彼女が入れられた棺桶は宇宙飛行士たちが乗り込む宇宙船を連想させる。
それにより宇宙船が死と隣り合わせの閉ざされた空間であることを比喩的に表現しているところなど、流石デイミアン・チャゼル、上手い!と感じました。
ジェミニ8号やアポロ11号の描写も、あくまでニールの乗り込んでいるコックピットに焦点を当てて撮られており、この映画が彼のミニマムな物語を描くものであることを確認させているのと同時に、観客に宇宙という未知の空間に放り出されたクルーの恐怖を体験させる効果も生んでおり、実にスマートでクールだと感じました。
ジェミニ8号の場面は映画館で観たかった!
宇宙船の爆音と宇宙空間の無音を対比的に描くという撮り方も効果的。
何より、全編にわたり暗い影が映画を覆っている感じが、世間的な名声とは対比的なニールの闇を表している様で、哀愁を誘います。
ニールがミッションに没頭するにつれ、妻との心の距離はどんどん離れていく。
月面着陸という偉業を成し遂げた後の彼と、その面会に来た妻がガラス越しで向かい合う場面では、ニールと妻の心の距離が決定的に離れてしまったのだということを、両者が確認した様に見えます。
ガラス一枚で、地球と月を思わせるほどの遠い距離を表している、非常に上手いとしかいえないクライマックスが切ないです。
とにかくかっこいい映像を撮ることとと、常人とはかけ離れた天才を描くことに長けたデイミアン・チャゼルらしい映画でした。
ストーリーはつまらないとは思いましたが、映像と演出、そして丁寧な主人公の心理描写に惹かれる、非常にクオリティの高い作品。
デイミアン・チャゼルの次回作にも期待!