「チャゼルの作品で一番好きかも」ファースト・マン ヴィアゼムスキーさんの映画レビュー(感想・評価)
チャゼルの作品で一番好きかも
国家的プロジェクトであるアポロ計画。人類で初めて月に降り立ったアームストロングというアメリカの英雄。そうした物語を大上段に振り下ろさず、カメラは被写体との距離を詰め、限定的な視点に留まり続けることで、個人/家族の普遍的な物語として"着地"させる。これがいい。
ミニチュア撮影やスクリープロセス、プロダクションデザイン、16mmと70mmフィルムの併用、当時の音声や音楽などなど、相当に作り込まれており、限られた予算で大作の風格と質感を導き出せている。被写体とのコンパクトな距離感ゆえにそれらを十全に"見せない"という…ある意味贅沢な作品だ。
これ系の作品は様々あるが、コックピット内の窮屈で息苦しい描写は群を抜いて素晴らしい。なんというか「人間が乗り込む為の座席」というより「飛ぶために必要な諸々の機械類の間にできた僅かな空間」に押し込められる感じがモロに出ている。IMAXの大画面で鑑賞してるのにめっちゃ息苦しいわ!ていう。
真実か否かは誰にも分からないからこそ、あの月での行為は受け手によって感想が違うだろうな。月面到着までの長い長い訓練・試練の旅路は、そのまま(個人的な、あまりに個人的な)喪の旅路と二重写しになる。『プラネテス』のユーリのエピソードを自然と思い出して心のダムが決壊しそうだった…。
ライアン・ゴズリングは男前だけど、どこかボーッとしていて何考えてるかわかんない感じあるので、冷静沈着で虚無を抱え込んだアームストロングを演じるのに適していたと思う。何より妻を演じたクレア・フォイが素晴らしかった。大きな瞳と繊細な表情でより感情がダイレクトに伝わってくる。