「Damien Chazelle」ファースト・マン Editing Tell Usさんの映画レビュー(感想・評価)
Damien Chazelle
この映画はハッピーエンディングなのか、それとも悲劇なのか。
人類で初めて月に降り立った、ニール・アームストロングのアポロ11号計画までの人生を描く。
冷戦中での宇宙開拓戦争を風刺するように描いているのは間違いない。どれだけの国家予算が使われどれだけの命が犠牲になったのか。それを中心に置きながら、ニール・アームストロングの葛藤を描くのだが、当の本人はあまり多くを語らない。彼の心中は私たちには推し量ることができない。
友人と「この映画が伝えようとしていることは何なのか。」と見終わった後に話した。その意見は完全に反対方向を向いていた。私は、物理を少しかじっていたこともあり、やはり他の映画と同じように、「これは一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な飛躍である」というあまりにも有名すぎる言葉のように、彼の犠牲や人生の犠牲を考えてみても、この一歩、たかが月されど月、は人類にとって偉業であるというその歴史への理解と感謝がメッセージであると感じた。
一方、私の友人は、「これは人類にとっては大きな一歩だが、私にとってはただの一歩だった。」という隠喩的な意味で捉えたそうだ。何人もの犠牲を払って、家族との時間、友人を亡くした末にようやくたどり着いた月にあったものは「無」。なんのためにここまで費やしてきたのかを完全に見失ったのは月に到着してからだったという、ニール・アームストロング1人の人生、宇宙飛行士たちや家族それぞれの人生を描いた悲劇(トラジェティ−)だという意見。
完全に納得できる。むしろ後者の方が、この映画のテイストやトーンにマッチしているような感じだ。
唯一、二人の意見に共通したことは、「自分の解釈に自信がない」ということ。はっきりとしたメッセージを受け取れず、言ってみれば混乱したまま楽しめずに終わってしまったとういうこと。それは特に後半に通ずる。前半はうちゅうかいはつという前人未到のことを成し遂げる難しさ、一瞬で失われる命、それに構わず、一方的に進んでいく政府と金。そこに自分の命がリスクになるという大きなサスペンス要素があって、本当に楽しめた。フィルムを使ったグレイン感での時代の表現。船内での窮屈さと閉ざされた心の状態を表現する撮影。宇宙空間での照明。これらは『インターステラー』(2014)をしのぐかと思ったぐらい。
しかし、「アポロ11号」という文字が表示されてから、テイストがガラリと変わる。少なくとも私の見方は変わった。あまりにも有名すぎる「アポロ11号」の功績。私には結末が予想できてしまって、前半のサスペンス要素を完全に失った。それ以降はあまり覚えてないぐらい印象がない。月面でのIMAXの65mmは美しい。しかし、ただ美しかっただけ。何を受け取ればいいのかはわからなかった。
私の感想は、一貫していないアンバランスなテイストに映画を見失ったというもの。あまりにも残念だった。初の監督単独作品のデミアン・チャゼル。彼の本音を聞きたい。「あなたの作りたかった映画は本当にこれなのか」と。