「鉛のようなドラマの彼方に浮かぶ月」ファースト・マン よねさんの映画レビュー(感想・評価)
鉛のようなドラマの彼方に浮かぶ月
1962年のX-15飛行実験から1969年の月面到達に至るまでのニール・アームストロングを至近距離で見つめる映画。アームストロングの自伝がベースですが野暮なモノローグは一切なし。幼くして亡くした彼の娘カレンの姿が至る所で影を落とし、戦争に行くわけでもないのに同僚が次から次に死んでいくのを見送る過酷な現場は地獄さながらで、ジェミニ8号搭乗には生きたまま棺桶に入るかのような冷たい狂気が、打上げには生きたまま火葬されているかのような絶望感が満ちている。ベトナム戦争を背景に膨大な予算を費消するアポロ計画への批判が高まる中、生還してもなお次のミッションに挑む男達の姿は眩しい反面痛々しいが、そんな鉛のようなドラマの遥か彼方にある月は途方もなく美しい。
手持ちカメラの高速パンというトレードマークを一切封印して臨んだデイミアン・チャゼルはザッラザラの16ミリからIMAXまでを巧みに使い分けて物語にうねりをつけています。登場人物の表情と仕草を2時間見つめるのは少々辛いですが、家族や友人にそっと寄り添う奥ゆかしさと激しく感情を吐露する勇ましさの両方を見せるジャネットを演じたクレア・フォイがとにかく印象的でした。
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