「歳の差恋から始まって、再び夢を走り描く」恋は雨上がりのように 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
歳の差恋から始まって、再び夢を走り描く
氾濫するコミック実写だが、年に1本か2本くらい好編が生まれる事がある。
しかも、辟易するJKの歳の差LOVE物なのに…!
ファミレスでバイトしている女子高生のあきら。
彼女は今、恋をしている。
想いを寄せている相手は、バイト先の店長。
よくある設定だったら若々しくイケメンだが、180度違う。
親子ほど歳の離れた40半ば、バツイチで、夢も希望も無く冴えない、加齢臭さえしそうな“おじさん”…!
歳の差でダメ男を好きになるなんて、あきら、物好きにも程あり過ぎ…。
原作コミックやTVアニメは未見だが、ビジュアルは見た事ある。
それだけでも、この配役はイメージぴったり!
睨んでるくらい無愛想だが、手足がスラリと長く、スレンダーなクールビューティー。可愛らしさも滲ませる。
まるで最初から小松菜奈をモデルにしたようなハマり役!
毎回どんな作品に出ても魅力を振り撒いてくれる彼女だが、本作は中でも最高作に入る。
眩し過ぎる制服姿、雨に濡れたその姿と表情にはイチコロ必至、ノースリーブと短パンの部屋着姿は鼻血ブー物、青春の光を浴びて全力疾走する姿は神々しいくらい。
とにかく、魅力大爆発!
ハイテンションな役柄とイメージの大泉洋が、冴えない中年男というのは一見ミスキャストと思うが、そこは今や実力派となった彼。哀愁をユーモアも滲ませ好演。本当に人の良さが伝わってくる。
台詞も原作コミックのをそのまま用いられてるらしく、響く台詞も多い。
映像は美しく、ユーモラスに、印象的に、繊細に瑞々しく、永井聡監督の演出も上々。
中年にとっては夢のような話。
JKにとって中年のおっさんは最も軽蔑していそうな存在なのに、まさかの恋愛対象。
あきらは好きになったら一途の性格のようで、時々かなり肉食系。
「店長の事、好きです」とストレートに告白したり、半ば強引にデートに誘ったり、積極的。
そんな店長も相手の想いに応え、運命の恋的な両想いに…ならないのが、ミソ。
店長はかなり困惑。
親子ほどの歳の差。何で、こんな自分に好意を…?
そもそも、あきらは何故店長に恋を…?
確かに店長は、冴えないが、人は良い。
穏やかで、真面目。
あきらにはもう一つ、理由があった…。
ある事が原因で塞ぎ込んでいたあきら。
そんな時立ち寄ったファミレスで、優しく声を掛けて来てくれたのが、店長。
傷付いた心に、包み込んでくれるような温もり。
誰かを好きになるなんて些細な事がきっかけ。理由にもならない理由だが、本人にとっては真剣な理由。
先にも述べた通り、歳の差なんて関係ない!運命の恋!…みたいな展開にはならない。
店長はあきらの気持ちを汲みしつつ、一貫して一線を超えない。
あきらも自分の気持ちに思い悩む。
勿論ピュアなラブストーリーではあるが、二人には似たような挫折と再起がある。
あきらは陸上短距離のエースだった。
が、足を怪我し、陸上から遠退く。
どんなに部の親友や後輩に誘われても、戻ろうとはしない。
それほど挫けたものは重く、大きかった。
店長にも夢があった。小説家になる事。
が、自分の才能の無さに筆を置いた。
将来や夢絶たれた女子高生と中年男性。
性別も歳も違うけど、共感し、通じるものが…。
あきらの青春ストーリー、店長の失った青春ストーリーでもある。
これが単なる歳の差LOVE物ではなく、誰もが共感を持てる作品にしている。
二人の周りの人間模様。
あきらの陸上部の親友・清野菜名、あきらにとって刺激剤の存在・山本舞香、共に好演。
店長のかつての親友役に、戸次重幸。ご存知“TEAM NACS”の共演が心憎い。
かつての自分に匹敵するような陸上のホープが現れる。
挑発的で、勝負を挑んでくる。
自分にはもう関係ないと一蹴し、スパイクやユニフォームさえ捨てようとするあきらだが…、相手のタイムが気になったりする。
店長も今は人気小説家になった昔の親友と久々に会う。
一瞬にして、あの頃に戻った気がした。
あの頃は、夢も希望も、やる気も何をしたいかも満ち溢れていた。
なのに、今は…。
それぞれに訪れた、再起になるかもしれないきっかけ。
が、あきらはくすぶり続ける。
自分は今、陸上より恋。
いや、ひょっとしたら陸上から逃げる為に恋してるだけなのかもしれない。
また陸上に戻るのが怖い。
また好きなものを失いたくない。
自分は何をしたいのか、何をやりたいのか…。
お互いの挫折や諦め切れない夢を知って、ただ恋する相手/恋される相手と言うより、相手への理解を深める。
悩む若者の背を押すのは、悩んだ事あるかつての若者。
若い君は、あの頃の自分を思い出させてくれる。
心残りがあるのならば、執着し続けるべき。
したい事、やりたい事に向かって、また…。
確かに歳の差のラブストーリーである。
でもそれ以上に、その恋から始まって、
再び夢に向かって走る。
再び夢を描く。
挫折と再起の、ストレートな青春ストーリー。
後味も爽やか。
ラスト、あきらが潤ませた涙…。
また一つの夢に向かって走り出すという事は、一つの想いを断ち切ったという事でもある。
ちょっぴり切なさを滲ませつつ、その姿は晴れやか。
雨上がりの空のように。