「ドーピングを試してみた!だけの導入から、いつのまにか国家レベルの話に…」イカロス shawさんの映画レビュー(感想・評価)
ドーピングを試してみた!だけの導入から、いつのまにか国家レベルの話に…
Netflixで、ドーピング問題を扱った面白いドキュメンタリー映画が配信されているときいて視聴してみた。これがびっくりするくらい面白かったので、久々に感想を書いてみる。
まず導入から面白い。監督自身がアマチュアロードレーサーで、ロードレースを始めたきっかけはグレッグ・レモンだ。そしてランス・アームストロングのファンでもあったのだけど、数年前に彼がドーピングを認めたことにショックを受ける。ただ、アームストロングは一度もドーピング検査に引っかからなかったという事実にも関心を持っていた。もしかしてドーピング検査ってザルなのでは?と考えたわけですね。
以前、1ヶ月間マクドナルドを食べ続けるとどうなるか監督自身が試してみた「スーパーサイズ・ミー」というドキュメンタリ映画があったけど、同じような着想で、自分でドーピングを試してみてレース時の検査にひっかかるか試してドキュメンタリーにすることを思い立つ。
で、やるからには適当にドーピングを試すだけじゃなく、専門家の意見を取り入れて、より実践的なドーピングを実施することに。その相談役として白羽の矢がたったのが、ロドチェンコフというロシア人。スカイプでやり取りするとき、なぜかいつも上半身裸のおっさんなんだけど、ドーピングには的確なアドバイスをする。それなりの期間計画的なドーピングを行い、そしてアマチュアレースとして過酷なことで有名なレースに参加するが…というのがこの映画の前半部。
ここまでもなかなか面白いんだけど、怒涛の展開になるのはここから。なんとこのロドチェンコフ氏、ロシアのスポーツ界に蔓延するドーピング疑惑の中心人物だった!
このドキュメンタリを撮るために、意図的にロドチェンコフに近づいたわけじゃなくて、撮影が進む中で、ドイツからロシアへのドーピング問題の提訴があって、WADA(世界アンチ・ドーピング機関)による調査が始まって、ロドチェンコフもその調査の対象になり、身の回りも危険になって…というのがリアルタイムで進行していく。その緊張感といったら。
ドーピング問題を扱った話でいえば、以前読んだシークレットレースという告発小説がめちゃくちゃ面白かったんだけど、あの話ではロードレースという競技内だけのドーピング話だった。対して、この映画で語られるのは国家ぐるみで行われたドーピング話で、そもそもにして話の規模が違う。なんというか、開いた口が塞がらないというか…。終盤に語られる話がどこまで真実なのかはわからない。ただし、WADAがこの話を信じるくらいの説得力があった。
しかし、まさか監督のちょっとした思いつきが、こんな大きな話にまで展開するとは思わなかった。映画の作り手からすると運にも恵まれたと思うけれど、それをしっかりしたドキュメンタリー映画に仕上げた手腕は間違いないと思う。Netflixに加入しているなら、ぜひとも一度鑑賞してみてほしいな。