劇場公開日 2018年6月1日

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「自分とは何者で、どこへ行こうとするのか」レディ・バード うそつきかもめさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5自分とは何者で、どこへ行こうとするのか

2024年7月27日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

とにかく詰め込めるだけ詰め込んだ彼女の日常を、割とエモーショナルなヤマ場もなくたんたんと描いた映画。こういうアプローチは映画の得意分野だろう。

卒業にかこつけて、自分を変えたい彼女の信条は良く理解できるし、自分もそうだった。今の自分を形作るものをすべて断ち切って一回「リセット」出来るチャンスをうかがっているのだろう。友情の離合集散や、ロストバージン、母親の言うことにいちいち逆らってしまうのも、当事者でなければ微笑ましく見ていられる。

なにより、象徴的なのが、自らをレディ・バードと呼んでもらおうと強制する痛々しさが、自分の経験と重なって不思議な共感を呼ぶ。

仮に、続編を撮ったとしても、ここから一歩も先に進んでいない気もするが、それでも彼女は少しずつ自分を変え、成長していくのだろう。いちおう、お話は家から独立し、故郷を恋しく思うところで区切りを迎えるが、この映画、その後を延々と続けても成立してしまうようなお話だ。

特徴的なのが、「間」を取らない芝居と編集。これだけで、リアルな日常を覗き見ている気になる。監督であり、脚本も担当したグレタ・ガーヴィグは、かなりこだわって編集したように見える。私小説的でもあり、かなり身を削って書いている分キャラクターに惹きつけられる。それは、主演のシアーシャ・ローナンにも同じことが言える。友達とマスターベーションの話をするところなんか、ティーンには刺激が強すぎるかもしれないし、演技とは言え、自分と同一視されることを考えれば強い抵抗があってもおかしくない。それをやってのけるのだから、身を削っているのだ。

邦画では、『横道世之介』なんかがちょっと雰囲気似ているかもしれない。アプローチの仕方はまったく違うけど。

うそつきかもめ