劇場公開日 2018年10月13日

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「画面一杯を使って、科白なしで表現に昇華させ、作品として成立させられる俳優はそうはいない」日日是好日 えすけんさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5 画面一杯を使って、科白なしで表現に昇華させ、作品として成立させられる俳優はそうはいない

2025年11月16日
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鑑賞方法:VOD

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真面目で、理屈っぽくて、おっちょこちょい。そんな典子(黒木華)は、いとこの美智子(多部未華子)とともに「タダモノじ ゃない」と噂の武田先生(樹木希林)のもとで“お茶”を習う事になった。細い路地の先にある瓦屋根の一軒家。武田先生は挨 拶も程々に稽古をはじめるが、意味も理由もわからない所作にただ戸惑うふたり。「お茶はまず『形』から。先に『形』を作っ ておいて、後から『心』が入るものなの。」と武田先生は言うが――。青春の機敏、就職の挫折、そして大切な人との別れ。人 生の居場所が見つからない典子だが、毎週お茶に通い続けることで、何かが変わっていった……(Amazon Primeより)。

茶道、華道、書道を伝統芸能の「三道」というが、これ以外にも剣道、柔道、弓道、合気道などの武道も含め、とにかく日本人は「道」が好きなわけだが、いずれの「道」には事細かな「型」がある。型はある意味で不変である。その型通りに事が進まないのは、実存であるわたしや環境、あるいは道具に何かしらの不具合が生じている可能性が高い。逆に言うと、わたしたちは不変な型と対照しないと、生来、変化に気づきにくい気質なのかもしれない。風を感じ、雨の音を聞き、水の滴りの気づくことができるのは、不変であり、常に立ち戻ることができる型があってこそである。武田先生が言う「後から心が入る」ことの本質はそこにあるし、道とは、この型を継承していくための文化的形態である。

それにしても樹木希林の佇まい、所作の美しさは凄まじい。画面一杯を使って、科白なしで表現に昇華させ、作品として成立させられる俳優はそうはいない。黒木華の普通の女性像も良かった。10歳の子にフェデリコ・フェリーニ「道」を、しかもたぶん劇場で、ということはつまり、名画座で見せる親は存在するだろうか、とはちょっと思った。

えすけん
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