「欲望の深海…性の深淵へ潜航する青年」娼年 しゅうへいさんの映画レビュー(感想・評価)
欲望の深海…性の深淵へ潜航する青年
Blu-rayで鑑賞。
原作は既読です。
石田衣良の小説は、「I.W.G.P.」シリーズや「眠れぬ真珠」、「夜の桃」などを読んだことがあります。総じて思うのは、女性の描き方がとても上手い、と云うこと…
作品に登場する女性像がリアルで、輪郭がまざまざと浮かんで来る。心の機微が丹念に描写されており、何故そこまで女心が分かるのだろうかと、作者の洞察力が羨ましくなりました。
本作の原作もしかり。登場する女性の欲望のどれもが愛おしく感じられ、それに触れることで成長していくリョウの姿が繊細なタッチで描かれていてとても感動しました。
その印象を引き摺って鑑賞しましたが、観終わった後は、原作の読後感に似た静謐な気分に浸りました。
松坂桃李はリョウ役にピッタリだったなぁ、と…
退屈だった毎日が輝き出し、それに連れて感情が豊かになっていく様を、作品世界に合わせたのだろう抑えた演技ながら、見事に表現しているように思いました。
はじめは目を覆っていた前髪が、娼夫の仕事を通して成長していく中で、だんだん上がっていくところがさりげなくていい感じ。視野の広がり、と云うことでしょうか?
リョウが仕事を通して関わった女性たちがとても魅力的でした。秘めた欲望を曝け出す時、真の美しさが現れて来るように感じました。体現した女優陣の演技も素晴らしかった。
淫らな側面が浮き彫りになり、剥き出しになった瞬間、何もかもかなぐり捨てて、欲望のままに求め合う…
本作で描かれる様々な形の濡れ場が感情を揺さぶって来ました。映像ならではの生々しさがあり、さらには快楽に溺れることへの儚さと怖さ、切なさを感じました。
使い古された表現ですが、次第にどこまでも深いところへ沈んでしまいそうな恐ろしさがありながら、それにいつまでも身を委ねていたくなる感覚に捕らわれました。
その後には、体中を取り巻いていた澱が流れ落ち、芯から浄化されていくような爽快感が訪れ、やがて気怠い時間が流れるような感覚…。一仕事終えた気分になりました。
ここで気になった点を少々―
あの前戯はいただけないなぁ、と…。下手くそ過ぎるなぁ、と…。あんなに激しくしたら痛いですよ。気持ち良くないんじゃないかなと思いました。かつて怒られたことがあるので…。デリケートな部分なんだから、もっと労らないと…
はじめは、リョウは女性をつまらないと感じていたから、思いやりが無く、独り善がりになっているせいかなと考えていましたが、後半になっても全く改善されないので、単なる監督か演者の経験値の問題なのかもなぁ、と…
私も他人にとやかく言えるような立場ではないですが、他のレビューを読んでそう感じたのが私だけじゃないんだなと少し安心しました。あれが許されるのはAVだけでしょう…
本作のシーンは全てがとても艶めかしくエロティックで、薄絹に指を滑らせているような滑らかな質感の映像が、見事に原作の世界観を表現しているなと思いました。
まるで深海のような、幻想的な揺らめきを感じました。夜や暗い場面が多いので余計そんな風に感じたのかもしれません。いい映画を観たなと、素直に思えました。
[余談]
本作では女性限定の応援上映が開催されていましたが、どこをどんな風に応援したのか…? 気になりました(笑)。
※修正(2022/03/12)