劇場公開日 2019年1月18日

「ヤマ場からヤマ場へ」マスカレード・ホテル keithKHさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0ヤマ場からヤマ場へ

2019年6月25日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

笑える

楽しい

寄稿された方々が悉く酷評している”大話題作“にして“大問題作”の本作ですが、私なりの評価・意見を投稿させて戴きます。

昨年100歳で大往生された日本映画史を代表する脚本家・橋本忍氏が唱える映画制作の基本三要素である、「テーマ」「ストーリー」「人物設定」の内の、起点となる「テーマ」が本作には見当たりません。私なりに敢えて言うとタイトルであるマスカレード(仮面舞踏会)から勘案して、「様々な人が様々な仮面を被ってやって来るホテルでは、様々な出会いがあり別離があり、悲喜交々の様々な人間ドラマがある」。やや冗長ですが斯様な処でしょうか。とはいえ、何だか捉えどころのない茫漠としたテーマです。

一方宣伝広告ではミステリードラマを謳っていますが、にも関わらず作品全体を通じた一貫した張りつめた緊迫感がなく、サスペンス性も希薄なので、観ていて不安感や興奮感が掻き立てられません。
多分これは、制作側が狙う「ミステリードラマ」というテーマと実際のストーリーが乖離してしまったことに起因すると思います。

寄稿者の方で本作を、嘗て一世を風靡した2時間ドラマと評したのは、蓋し言い得て妙ですが、但し、2時間ドラマには必ず柱となるテーマがありますので、本作は寧ろ、30分ミニドラマの5-6回連作オムニバスといった方が適切でしょう。一癖二癖ある芸達者の役者連による各エピソードは観ていて飽きず、其々には思わず惹き込まれてしまいます。
濱田岳、生瀬勝久、笹野高史、菜々緒、高嶋政宏等の役者を看板とする連続物の浮世絵草紙を見せられた印象があります。これはこれでヤマ場からヤマ場へ連続してシークェンスをつなぎ、観客を飽きさせず退屈させません。いわば進行役の木村拓哉と長澤まさみも、歯切れは良く見栄えも良いので画としては巧く収まっています。ただこれは、専ら各々のシークェンスの役者の個性と存在感で持たせているのであって、決して一つの作品として魅了しているのではありません。
その結果、多くの観衆は2時間強をそれなりの愉快感に浸って観終えられますので、作品としての充足感や堪能感が残像として長く残るか否かはともかく、市場として大ヒットになっているのも得心はいきます。
感動を残してくれる作品は、無論良い映画ですが、映画産業としては、観客を動員してこそ映画を作り続けられますので、ヒットする作品が良い映画であることは事実です。
とはいえ観る側は厳しい審美眼で作品を評価し、その評価した点の良化を確認するためにこれからも映画館に通い続けましょう。

keithKH