劇場公開日 2019年1月18日

マスカレード・ホテル : インタビュー

2019年1月16日更新
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木村拓哉、スターとして生きてこられた理由 長澤まさみと「マスカレード・ホテル」を語る

累計355万部を突破した東野圭吾氏による小説シリーズを実写映画化した「マスカレード・ホテル」(1月18日公開)。連続殺人事件を追う刑事が一流ホテルに潜入捜査するという、トリッキーかつ良質なミステリーがメインとなる本作だが、主演・木村拓哉と共演・長澤まさみによる“水と油”の対照的な役どころも見どころだ。ときに反発し、ときに手を取り合い、物語に隠された「プロフェッショナルとしてどうあるべきか」というもうひとつのテーマをも表現して見せた2人。初共演の長澤は、映画を通じ木村のプロ意識と、真骨頂を垣間見たという。(取材・文/編集部、写真/間庭裕基

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都内で発生し、すべての現場には不可解な数字の羅列が残されていた3件の殺人事件。警視庁捜査一課のエリート刑事・新田浩介(木村)は、その数字が次なる犯行予告と看破し、第4の現場がホテル・コルテシア東京であると突き止める。同ホテルのフロントクラークとして潜入した新田は、業務の教育係となった山岸尚美(長澤)と、価値観の違いを理由に幾度も反発しあいながら、利用客のなかから“マスカレード(仮面)”を被った犯人を見つけ出そうと奮闘する。

■「このテンポ、この温度で次のセリフを言ってくれる。そう感じることができた」

ホテル業務をこなしつつ、捜査のため宿泊客らを鋭い眼光でにらみつけ続ける新田。それに対し、山岸は「“客”ではなく“お客様”と言ってください」など、ホテルマンの“いろは”を丁寧に叩き込んでいく。一流ホテルへの潜入捜査という設定の面白さはもちろんだが、2人の会話劇が、作品の出来栄えを大きく左右する重要な要素となった。

木村が「長澤さんの台本の読み方が、自分の読み方と近しかった」と語るように、自身と同じような感覚で台本を読み込み、セリフを発してくれる“相棒”がいる事実は、ことさら心強かった。「ファーストコンタクトから、同じテンポで台本を読んでくれていると、すぐにわかった。長澤さんが、このテンポ、この温度で次のセリフを言ってくれる。撮影ではそれを感じることができたんです。すごく感謝しています」と最大級の賛辞を送る様子に、信頼がにじむ。

■「原作を読んでいたとき、木村さんみたいだ、と思うときが多々あって」

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原作者の東野氏は、本作執筆当初、木村を漠然とイメージしながら新田というキャラクターを練り上げていった、と証言している。話題をさらったゲームソフト「JUDGE EYES:死神の遺言」しかり、木村をモデルにしたキャラは多い。長澤は「原作を読んでいたとき、『新田は木村さんみたいだ』と思うときが多々あって。そう思った人、多いんじゃないですかね。木村さんが演じると知ったときも納得でしたし、東野さんが木村さんをイメージされていた、と聞いて、『やっぱり!』と思ったんです」と前置きし、「現場でも、木村さんが演じているのが原作からのイメージ通りで、『そうそう!』と感じる日々でした」と思いを馳せる。

「その『そうそう!』というのは、ずっと木村さんに対して持っているイメージなんです。そういう印象が、小説の材料になっているのがすごい。私が題材に使われるとしたら、ヘラヘラ笑っている役でしょうね(笑)」。

だからこそ木村は、原作や脚本に描かれている人物像を真っ直ぐに演じていることが、作品に最大限貢献することだと考えた。「東野先生は、『どうぞご自由に』ではなく、台本を読み『山岸はこんなことを話さない』『山岸がこうした場合、新田はこうするのでは』と、ことあるごとに言ってくださったそうです。ありがたいことで、生みの親が並走してくれていた感覚がすごくあります」と、感謝を胸に撮影を全うしていった。

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■木村拓哉を“木村拓哉たらしめる”理由

新田は犯人を追う刑事として宿泊客に厳しくあたり、山岸は信頼をもってホテルの宿泊客を包み込む。それぞれの信念は磁石のN極とS極のように反発しあい、しばしば険悪なムードになる。しかしあることをきっかけに、2人は徐々に考え方を改め、最大のパフォーマンスを発揮するため必要な“信頼”を芽生えさせていく。この過程が“プロフェッショナルとはどうあるべきか”というテーマを、観客に投げかけるのだ。

本作を通じて、自身の持つ“プロという概念”になんらかの影響があったか。そう問うと、長澤は「木村さんこそがプロフェッショナルだと思います」と、確信めいた表情で口を開いた。

「現場での居方や、人間性も。そばでお仕事をさせてもらって、『木村さんはプロフェッショナルな姿勢で、ずっとやってこられたんだ』と感じることがたくさんありました。ずっとプロフェッショナルであり続けるすごさ。普通、どこかで緩んでしまったりするじゃないですか。簡単にできることじゃないです。神業です」

木村拓哉を“木村拓哉たらしめる”のは、その輝きの強さではなく、長年、輝きを持続させるプロフェッショナリズムである。そう示唆する長澤に、木村はふっとほほ笑みを投げかけ、自身の胸中を語り始めた。

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「僕らがカメラの前で表現しているものを、しっかりと収穫している人たちが、現場にはいるんです。360度僕らの周りに居て、照明を当て、心の叫びをとらえてくれる。映像を残してくれる。エンドロールで表示される方々に、僕らは支えられているんです。そして、その1人1人全員が、恥ずかしくないプロなんです。各部門のアシスタントの人ですら、チーフから指示されたことを“ただやっている“のではなく、みんな“吸収している”。本気じゃない人がいたら、灰汁みたいに浮いてきますからすぐわかります。プロの人々に囲まれ、共同作業させてもらっているから、おのずと自分もそういられるんです」

周囲に支えられることで自分もプロでいられる。そんなシンプルな思いを胸に抱いてきたからこそ、木村は常にプロであり続け、平成を代表するスターとして走り続けることができたのだろう。もうすぐ、元号が変わる。文字通り“新時代”にも、彼の輝きが鈍ることはない。

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