「スケールはアップライジング、熱量はダウンサイジング」パシフィック・リム アップライジング 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
スケールはアップライジング、熱量はダウンサイジング
ハリウッド製巨大ロボットSFアクション大作『パシフィックリム』の続編がいよいよ登場!
前作は怪獣特撮好きな自分にはたまらない出来だったが、果たして今回は。
まず結論から書くと、ええ、はい、楽しめましたよ。エンタメ映画の単品として観て損ナシの3.5判定。
しかしながら……と続く訳だが、まずは気に入った点から書いていこうか。
...
イェーガーVS偽イェーガー!という昭和特撮な展開は燃えるし、量産型イェーガーとKAIJUが融合する
不気味な展開も好みだし、超巨大合体KAIJUに4体のイェーガーが挑むクライマックスも熱い!
あと、色々おかしな未来日本とはいえ(笑)、富士山で決戦なんて『怪獣総進撃』('68)っぽくてグッド。
ド派手なアクションシーンも満載だし、新主人公2人も好き。
お調子者だがいざという時は熱い主人公も、辛い過去を乗り越えて闘うバッドアスな天才少女も。
監督スティーヴン・S・デナイトは前作のギレルモ・デル・トロ監督とは別案で脚本を書いたそうだが、
デル・トロ監督自身が選出した方というだけあってやっぱり日本特撮大好きな方。
なので、こういう〝ノリ”に対する理解や世界観を拡げようとする姿勢は悪くない。
…
だけど……何だろう、この物足りなさと、若干腑に落ちない感じ……。
マコ退場やニュートご乱心も残念だが、それ以上に、演出の力量とこだわりで前作に及んでいない印象。
前提として、前作を手掛けたデル・トロ監督の作品はどの作品でも色彩や各オブジェが作り込まれており、
映像そのものに重厚感がある。そこにくわえて前作では、ロボットや怪獣に関する細かな演出に対して
ほとんどフェティッシュと呼べるほどの監督のこだわりを感じたものだった。
イェーガーが動くたびに外装の金属が〝ガ・ギ・ギ・ギ”と軋んだり、動作ひとつひとつにしっかりタメを
作って見栄(ミエ)に派生させる点は、躍動感・重厚感の演出として重要。これらはまた、「イェーガー=
ヒトが動かすもの」という印象を強め、物語への没入感やキャラへの感情移入を高める効果もあった訳だ。
そういう点が、本作はかなり弱い。
人間の目の高さから見上げるようなアングル、あるいは極小物と巨大物を同じフレームに収めることで
スケール感を演出する点もそう。本作も随所でやってはいるのだが、人と巨大物のサイズを
しっかり比較できるフレームやテンポにまで追い込み切れていない感がある。
なので全体として、今作は前作よりどうも「軽め」「薄め」に感じられる。
「遠目で見ると同じだが、近づいてよく見ると細部の造り込みが違う」といった
程度の差ではあるが、結局その細部が最終的な印象に利いてきてしまっている。
...
あと、「中国資本で製作」という点を単に気に入らない方も居られるようだが、
そういう事をあまり気にしない自分でもさすがに気になったシーンがひとつ。
なぜにシャオ産業の姉さんが〝スクラッパー”に乗るん?
彼女も職業柄イェーガーに関する知識はある程度あったとは思うが、イェーガーの訓練経験はおろか
愛着すらもないあの社長が、基地にいる他の人間をさしおいて最後に活躍する違和感は割とデカい。
かつてパイロットで……とか、責任を感じて……とか、そんな描写があればまだ納得できたが、
特に説明も負い目を感じる様子も無しにいきなり美味しい所をさらってニッコリしてるので、
なんかこう、ああもう、すっごい、モヤモヤっとする。
あのね、アンタがちゃんと管理してなかったせいでめっちゃ人死んでますからねッ!
...
文句は多くなったが……
それでも随所に特撮愛が感じられる、水準以上のSFアクションに仕上がっていたとは思う。
しかし次があるなら……デナイト監督には悪いが……やっぱデル・トロ監督にメガホン取ってもらいたいなあ。
<2018.04.15鑑賞>
.
.
.
.
長い余談:
本作の製作経緯とかについて雑感。
今回の続編、2016年に制作会社レジェンダリーが中国のワンダグループに買収され、それに絡んだ
スケジュール変更でデル・トロ監督と前作主演のチャーリー・ハナムが参加不可となった経緯がある。
前作は中国でメチャクチャ売れたので(日本アニメや特撮を見て育った70,80年代生まれ世代にウケた
という分析あり。日本のサブカルが中国の人々にも共感されていること自体は非常に素晴らしいこと)、
レジェンダリーとしても続編制作は待ったなしだったのだろうが、特撮への深い造詣でもって前作を
生み出したデル・トロ監督の降板は、前作の熱心なファンからすればやはり相当に印象は悪いだろう。
自分も前作の大ファンが細かな差異にも敏感になる気持ちは分かるし、物語の整合性より
ビジネスを優先した演出なんて尚更イヤな訳だが、どうも買収後のレジェンダリ―作品は、
明らかに中国市場を意識した演出やキャストを盛り込む傾向が強くて「うぅむ」と思う所がある。
今や映画スクリーン数は中国が北米を追い抜いている現状、レジェンダリ―に限らず業界全体が中国市場を
意識するのは当然な訳だが、そこを意識し過ぎて作り手の創作活動にまで支障が出るのは避けるべきだし、
どんなに素敵なショウを作っても、そこに金の匂いを嗅ぎ取った瞬間、嘘臭くなってしまって興醒めだ。
ビジネス的判断や第三者的に品質を確認するという意味合いでの判断は、そりゃ最低限は必要だと思うが、
「面白いもの創るぜ!」という作り手の情熱を映画にありったけ注ぎ込める環境作りこそが、
作品にとっても観客にとっても最終的には幸福なのではと個人的には思うのだけどねえ。