「なぜ彼はディープスロートになったのか」ザ・シークレットマン とえさんの映画レビュー(感想・評価)
なぜ彼はディープスロートになったのか
ディープスロート目線でウォーターゲート事件を描いた作品
これは「ペンタゴン・ペーパーズ」「大統領の陰謀」とセットで観ると、より理解できる
「大統領の陰謀」でワシントンポスト紙の記者に情報提供していたディープスロートの真相
これまでは「影の人」だったディープスロートにスポットライトが当てられる
ディープスロートこと、FBI 副長官のマーク・フェルトは、元CIAエージェントが民主党本部に盗聴器を仕掛けた事実を掴み、その犯人がホワイトハウスに近い人間の指示で動いていたことを知りながら、捜査の打ち切りを命じられる
そこでマークは、その情報をワシントンポスト紙にリークする
そのマークを主人公にしたことで、これまで描かれることのなかった
「なぜ、彼は内通者になったのか」
「彼を突き動かしたものは何か」
というマークの心境が描かれる
その「なぜ」の裏には、家族の存在があった
その頃、マークの娘は家出をして失踪中であり、その原因は当時のアメリカの政治にあって
そこから妻とは冷戦状態になってしまう
そんな彼の家族は、当時の政権が国民を真っ二つに引き裂いていた状況をそのまま反映していた
白人富裕層は政権を指示し、
それ以外の人たちは「無駄に長く続く」ベトナム戦争を非難し
過激な抗議行動をする者もいた
マークの娘も「政権側」の父に嫌気がさして失踪してしまう
その状況の中で、失われた家族を元に戻すために
マークはディープスロートとなり、マスコミを使って国民感情を煽り、ホワイトハウスに揺さぶりをかける
それには当時、ホワイトハウスと対立関係にあったワシントンポスト紙が最適だったのだ
「大統領の陰謀」を観た時は、ワシントンポスト紙の記者たちがアメリカの政治を変えたヒーローだと思っていたけれど、
この映画を観て
真の勇者はディープスロートだったんだなと思った
ニクソンが憎くてディープスロートになったというよりも、
止むに止まれずリークするしかなかったマークの悲壮感が印象的だった
一人の善意が世界を変えることができると思えるところに、この映画の素晴らしさがある