劇場公開日 2018年1月27日

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ジュピターズ・ムーン : 映画評論・批評

2018年1月16日更新

2018年1月27日より新宿バルト9ほかにてロードショー

人間が“空を飛ぶ”イメージが純粋なサプライズを呼ぶ現代のヨーロピアンSF

CGの飛躍的な発達によって、今やヴィジュアル化不可能な超常現象など存在しない。しかし何でも描けるCGの万能性は、皮肉にもそれに慣れ親しんだ観客の驚きを奪い、それならばとスペクタクルの派手さをエスカレートさせる作り手との間で、際限のないいたちごっこが繰り広げられている。ハンガリーから届いた本作は、そんなご時世に人間が“空を飛ぶ”というスーパーナチュラルなイメージを核に据えて、カンヌ国際映画祭コンペティション部門に選出された異色作。「ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲(ラプソディ)」でブダペストの街に250匹の犬を解き放ち、観る者のド肝を抜いたコーネル・ムンドルッツォ監督の新作である。

主人公は、セルビアからのルートでハンガリーに密入国したシリア難民の少年アリアン。国境警備中の刑事の銃弾をまともに浴びて絶命したと思われた彼は、なぜか息を吹き返し、重力を自在に操れる空中浮遊能力を身につける。このようなSF的奇想を、現代のヨーロッパを悩ませる難民問題に持ち込んだムンドルッツォ監督は、少年がスーパーパワーを得た理由を劇中で一切語らない。それを金儲けに利用しようとする者、まるで天使を目撃したかのように祈りを捧げる者など、荒廃した現実世界に疲弊しきった人々の多様なリアクションを描くことで、豊かな寓意を生み出すことに成功している。

少年をスーパーマンのように高速でビュンビュン飛ばすのではなく、カメラもろともふわりと宙に浮かせ、緩やかな遊泳や回転のアクションを映像化した演出センスが実に独創的で、驚きどころか陶酔感すら誘われる。さらに難民たちが鬱蒼とした森を全力疾走で逃げまどうシーンの移動撮影、市街地でのカーチェイスにおける斬新なカメラアングルなど、ここぞという場面で強力な長回しを用いた描写力は圧巻。原始的なスリルに満ちた逃亡アクションとしても一級品の出来ばえだ。

ちなみに、ブダペストの都市部を一望するショットを含む大小さまざまなスケールの空中浮遊シーンは、実際に俳優をクレーンやワイヤーで吊って撮ったもので、前作の犬パニック・シーン同様、ほとんどCGを使っていないという。今どき“空を飛ぶ”というイメージがこれほど純粋なサプライズを喚起すること自体が奇跡的と言えるが、本作のストーリーにおいても“奇跡”は重要なキーワードでもある。何はともあれ、茫然自失の光景に厳かさが息づく驚異の映画体験をお試しあれ。

高橋諭治

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