「オリジナル版との比較:『SUNNY』が優れている5つのポイント」SUNNY 強い気持ち・強い愛 カミツレさんの映画レビュー(感想・評価)
オリジナル版との比較:『SUNNY』が優れている5つのポイント
※コメント欄に「ベトナム版、米国版の『サニー』について」を追記しました。(2018/09/10)
正直言うと、観る前は不安の方がはるかに大きかったです。と言うのも、オリジナル版の『サニー 永遠の仲間たち』は、笑いと涙、甘さと苦さのバランスが絶妙な奇跡の一作だと思いますし、本作とオリジナル版とでは、国や時代だけでなく、時代背景があまりに違いすぎますから。
しかし、実際に観てみると、これがなかなかの良リメイクになっていて驚きました。その一番の勝因は、本作がオリジナル版の優れたバランス感覚を受け継いでいるところにあると思います。
本作はいわゆる“病死もの”でありながら、からっとした笑いを織り交ぜ、湿っぽい雰囲気になりすぎないように上手くバランスを取っています。また、ノスタルジーを喚起する内容でありながら、青春時代の美しい思い出だけでなく、苦い思い出もちゃんと描いていますし、過去に耽溺せず、現在の自分から一歩踏み出す姿勢をきちんと描いています。
こうしたオリジナル版の精神を正しく受け継いだ本作は、十分にオリジナル版との比較に堪える作品になっていると思います。元の『サニー 永遠の仲間たち』が大変優れているので、相対的に劣っているように見える部分もありますが、ブラッシュアップされてむしろ良くなっている部分もあります。全体的にはカドが取れて丸くなり、気持ち好く笑えるコメディの要素が強くなった印象です。
以下に、本作『SUNNY 強い気持ち・強い愛』と、オリジナル版『サニー 永遠の仲間たち』それぞれの、特に優れていると感じたところを挙げていきます。本編の具体的な内容にも言及していますので、ネタバレにはご注意ください。
【SUNNY 強い気持ち・強い愛】
➂と➄あたりは賛否両論あるかと思いますが、「まぁ、こういう見方もあるのか」ぐらいに受け取っていただければ幸いです。
➀コメディエンヌとしての広瀬すず
広瀬すずと言えば、『ちはやふる』の綾瀬千早役での“残念美人”っぷりが素晴らしく、特に白目を剥いて失神する場面が強く印象に残っていますが、本作でも可愛さをかなぐり捨て、振り切った演技を見せてくれます。特に序盤のおばあちゃんが憑依(?)する場面は、オリジナル版にも全く引けを取らない“怪演”っぷりで、笑いを通り越してちょっと感動すら覚えました。
➁制服姿で裕子の夫に報復する場面
オリジナル版では、ナミの娘をいじめていた同級生たちを襲撃するという、さすがにちょっとこれはいかがなものか……と思ってしまう場面でしたが、襲撃する対象を裕子の夫に変更したことで、制服に着替える必然性も生まれ、気持ち好く笑える場面に生まれ変わったと思います。日本と韓国の女性観の違いなのかもしれませんが、逆にオリジナル版はなぜこうしなかったのだろうと不思議に思うぐらい、こっちの方が自然な流れになっています。
➂「心」が“SUNNY”の名付け親になっている
“SUNNY”というグループ名自体の必然性は薄れてしまったように感じましたが、この名前を思い付くのが「心」になっているところは巧いなと思いました。その直後に、「心」が“陽のあたる”とは言い難いような現状にあることが明らかになり、ビデオレターの場面では、そこで語られている未来の姿と現実の姿とのあまりのギャップに愕然とさせられます。なんとも皮肉な話ですが、だからこそ「心」に幸せになってもらいたいと願う奈美の気持ちがより際立っているように感じました。
➃「写ルンです」の写真の有効活用
結末部分の“ある展開”を考えると、新聞広告を全面にした方がまだ納得しやすいかなとは思います。それでもご都合主義だと言われればそれまでですが……。ただ、当時を彩るアイテムの一つである「写ルンです」をさりげなく活かしているのは巧いなと思いました。スタッフクレジットでも「写ルンです」の写真が活用されていて、大根監督らしい素敵なエンドロールになっていると思います。
➄ラストのダンスシーン
葬儀場でのダンスシーンの後なので、蛇足という気がしないでもないですが、個人的には結構好きです。実はこの場面と構造が似ているなと思うのが、現在の奈美が失恋した直後の自分と邂逅し、過去の自分を慰め、そうすることで現在の自分も癒されるという場面です。現在の自分と過去の自分が出会い、これからの自分を祝福する──という意味で、本作のフィナーレにふさわしいのではないかと思いました。
【サニー 永遠の仲間たち】
オリジナル版は80年代のソウルが舞台です。当時は学生運動が盛んで、女子高生たちの生態も“コギャル”というよりは“スケバン”に近いような印象を受けます。日本で言うと、60年代~70年代あたりの時代の雰囲気に近いでしょうか。音楽や服装などの若者の文化には、海外の文化への憧れが色濃く表れていて、本編を彩る楽曲も、ほとんどが当時流行していた洋楽のナンバーです。
このように、オリジナル版と90年代のコギャル文化を描いた日本版とでは、時代背景が全く異なります。そのため、日本人である私たちが、この作品を観てノスタルジーを感じることはできないと思いますが、その代わりに、映画を通して“異文化”にふれる面白さを味わうことはできると思います。
また、80年代の韓国の文化を90年代の日本の文化に“翻訳”する際に、何がどう変わったのかを見比べるという楽しみ方もあるでしょう。そういえば、オリジナル版では学生運動に明け暮れていたナミの兄が、日本版ではただのアニメオタクになっていたのには笑いました。
その他のオリジナル版で優れていると感じた点については、簡単に紹介するだけにとどめておきたいと思います。本作『SUNNY 強い気持ち・強い愛』が気に入った方は、ぜひオリジナル版の『サニー 永遠の仲間たち』もご覧ください。
◎“サニー”メンバーの俳優陣がすごい!特にチュナ(芹香)の男前っぷりと、スジ(奈々)の圧倒的な美しさは必見です。
◎現在と過去を行き来する映像のマジックがすごい!日本版でも模倣されていますが、オリジナル版のそれは、あまりに自然すぎて、それだけで感動できるレベルです。
◎クライマックスの学園祭の場面でのサンミ(鰤谷)の鬼気迫る演技がすごい!
◎ナミの描いたスケッチで、“サニー”メンバーの現在、過去、未来を見せるエンドロールが素晴らしい!「絵が得意である」というナミの設定を活かした最高のエンディングだと思います。
追記:ベトナム版、米国版の『サニー』について
余談ですが、日本だけでなく、ベトナムとアメリカでも『サニー』がリメイクされます。
ベトナム版は『Go-Go Sisters』というタイトルで、今年の3月に本国ですでに公開されているようです。
予告編を見る限りでは、主人公たちのファッションはオリジナル版に近く、デモのどさくさに紛れての乱闘シーンも再現されています。
70年代の南ベトナム(ベトナム共和国)が舞台ということで、オリジナル版の『サニー』と時代背景の面での共通点は結構多いのかもしれません。
米国版についての情報はまだほとんど出ていませんが、元の『サニー』が、外国文化への憧れが色濃く反映された時代を描いているだけに、ファッションや音楽などの若者文化の面での共通点は意外と多くなるかもしれません。
様々な国で『サニー』がリメイクされるのであれば、個人的にはインド版『サニー』を観てみたいです。
時代背景が違いすぎて逆に面白そうですし、ダンスシーンにも期待できそうなので(笑)
やさぐれ旅芸人さん、コメントありがとうございます。
日本版と韓国版それぞれに良いところがありますし、
見比べることで、いろんな発見があると思います。
ぜひオリジナル版『サニー』もご覧になってください。