「シリーズのファンとして歯切れの悪い感想を。」007 ノー・タイム・トゥ・ダイ 村山章さんの映画レビュー(感想・評価)
シリーズのファンとして歯切れの悪い感想を。
クレイグボンドの最終作として生まれた作品だけに、こういう展開になることは理解できるし、ボンドに○○がいたり○○だりすることに対して、シリーズの伝統を壊すなとか言うつもりはない。本当に。ただ、クレイグボンドがシリーズにもたらすと思われたハードで現実的という新機軸はどこかで放棄され、ボンドと関係者のみのメロドラマに終わったことには惜しかったという気持ちがある。
それよりも本作で不満なのは、後半がまったく楽しくないこと。ブロフェルドもラミ・マレックも喋ってばかりで、映画の流れが停滞してしまう。ボンド映画は傑作ばかりではなく、むしろ凡作、珍作、失敗作の宝庫だが、キャリー・ジョージ・フクナガは(例え失敗しようとも)観客を楽しませるために時間を使えていないのではないか。本シリーズの宝である定番スコアを封印したハンス・ジマーともども、このシリーズでも大きな転機作で楽しさが減退したことは残念でならない。
でも、みなさん思うことでしょうが、アナ・デ・アルマス扮するパロマのくだりは、これぞボンド映画というノリに現代的なアップデートも加わっていて、Qの料理シーンと並ぶ重苦しい本作における清涼剤でした。あと『女王陛下の007』の引用への苦言とか言い出すときりがないのでやめますが、クレイグボンドのことはずっと好きでしたよ、どうもありがとうございました。