「単にダニエル・クレイグ版のボンドが完結したのではなく、50年以上に及ぶ007シリーズの歴史の全てを総括して終ったのです そして本作をもって、21世紀の007シリーズが新しくこれから生まれるのです」007 ノー・タイム・トゥ・ダイ あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
単にダニエル・クレイグ版のボンドが完結したのではなく、50年以上に及ぶ007シリーズの歴史の全てを総括して終ったのです そして本作をもって、21世紀の007シリーズが新しくこれから生まれるのです
ついに公開
ヨッ、待ってました!
世界中のファンの声でしょう
前作スペクターは2015年の公開
普通007の映画は2~3年置きの公開です
ところが本作は一番最初は2019年11月の公開の予定でした
その当初予定ですら4年も間隔が開くのは珍しいことです
だからファンは、パンデミックによる公開延期の前から待ちくたびれていたし、期待と不安も膨らんでいたのです
大きなリブートになる作品は間隔が開きます
「007/カジノ・ロワイヤル」は4年、「ゴールデンアイ」は6年でした
本作は21世紀に生きるボンドとはどういうものかを、いよいよ示すべき大事な作品になるものです
ダニエル・クレイグ主演のカジノロワイヤル以降の4作品は、そこに至るための前振りの4作でひとつの作品に過ぎなかったのです
つまり本作こそリブートした007映画になるわけだったのです
この作品の成否によって、これからも金の成る木の映画シリーズ、世界一のアクション映画シリーズでいられるのかが決まるものであったのです
だから公開までの間隔が開くのも理解できます
しかしそれだけが原因では無かったのです
本作には色々とケチがついたからでもあったのでした
一部で「呪われている」と噂されたほど
ケチのつき始めは、監督解任、新監督就任のゴタゴタです
当初の監督はダニー・ボイルでした
彼は1996年の「トレインスポッティング」の監督として名を上げ、2012年のロンドンオリンピック開会式の監督を務めた程の人物です
誰もが本作の監督を担うに相応しいと思いました
しかし彼が提案した本作の原案は、シリアス性を求めていたプロデューサーのバーバラ・ブロッコリには「冗談がきつく奇抜過ぎた」ものだったようです
彼女はその案を却下、結局彼は監督を降板してしまうのです
降板というよりも、解任が真相だと思います
ボイルは「大作はもう懲り懲り」と語っています
では新監督を誰にするのか?
かねてから本シリーズを撮りたいと願っている実力のある有名監督はいます
クリストファー・ノーラン監督やドゥニ・ヴィルヌーブ監督です
前者はあまりにも冒険です
というより、007を隠れ蓑にして自分の撮りたいテーマをコッソリと仕込むやけに複雑な映画を撮ると警戒しなければなりません
後者は大作「デューン」に取り掛かっていて体が空いていなかったのでした
じっくり待つとかしている時間は有りません
その時バーバラは、熱心に売り込んでいたフクナガ監督を思い出したのでしょう
新進気鋭で近年数々の映画賞を獲得して勢いもありました
フクナガ監督は棚ぼたでお鉢が回ってきたというわけです
これが2018年8月のこと
つまり当初の公開予定の2019年11月まであと1年と少しか無い時点でのことだったのです
それで公開予定を2020年4月に延期を発表します
それでも準備期間は1年半、通常の三分の一しかない!
それも前任者の脚本は没で、フクナガ監督はいちから脚本を書き直さねばならないのです
「創造性に関する方向性の相違」とはそういうことです
ただボイル監督のあるアイデアだけは新脚本に活かされたそうです
以前から情報が漏れでていた黒人女性の007がそれであったのだ思われます
次についたケチはアクシデントです
撮影前半の2019年5月、肝心のボンド役のダニエル・クレイグが大傷をして撮影から一時離脱したのです
緊急事態発生では、撮影スケジュールを組み替えるしかありません
脚本がまだ出来ていないシーンでも先に撮るしかないのです
プロットはできていても台詞まで脚本が完成していない
準備できているセットはMのオフィスだけ
そんな状況で監督と俳優達は現場で力を合わせて、未完成の脚本で撮影を進めたというのです
多くの台詞はアドリブといいます
はっきりいって修羅場です
それでもフクナガ新監督のもと、2019年10月に遂にクランクアップさせたのです
それでこれだけのクォリティーの作品なのですから、監督の手腕は恐るべきものです
そして俳優陣や現場スタッフ達の実力の高さでしょう
そこへトドメのケチが襲いかかりました
編集も終わり、あとは2020年4月の公開を待つばかりとなったのに、今度はご存知の通りコロナウイルスのパンデミック!
公開延期すること3度
既に当初の公開予定2019年11月は、正式に2020年4月と発表されていました
それをパンデミックにより11月に延期します
それから更に翌2021年4月へ延期
それも無理となり2021年10月に延期になっていたのです
そうして都合4度の延期の末、ようやくのこと公開されたのです!
本作を観るために、コロナパンデミックの後、久し振りに映画館に足を運んだという人も多いと聞きます
みんな待ちくたびれていたのです
ですが、公開された内容は観ての通り期待を裏切らない最高の出来映えでした
観る前までの不安は雲散霧消しました
感動でいくら激賞しても足らないほどの出来映えだったのです!
世界中のファンも、フカナガ監督を選んだバーバラも大満足しているはずです
物語、アクション、撮影、演技、ロケ地、演出
どれもこれも最高です
新しい時代に合わせるということは、なにもポリコレを前面に押し出すという意味ではないはずです
そういう変わりゆく時代性を反映しつつも、伝統は継承され大事に残されるべきなのです
それがバーバラとボイル前任監督との「創造性に関する方向性の相違」なのだと思います
ダニエル・クレイグ版のジェームズ・ボンドは、こうして完成しました
過去の4作品と本作を合わせて、21世紀に生きている007とはこういう男であると世界中の誰もが実感できる人物像が完成したのです
ダニエル・クレイグ版ジェームズ・ボンドが提示した21世紀に実在する007は、本当にこの世界で活躍しているのだと想像できるものです
そして観終わった時、シリーズが完結してしまったという感があります
単にダニエル・クレイグ版のボンドが完結したのではなく、50年以上に及ぶ007シリーズの歴史の全てを総括して終わったと思わせるのです
しかし本作をもって、21世紀の007シリーズが新しくこれから生まれるのです
黒人女性の00ナンバー、仕事だけの関係のボンドガール、マニーペニーも、Qも、Mも何もかも21世紀に存在するならこうであろう形に刷新されました
敵すらもそうです
スペクターは亡霊のように消え去り、今までの財や権力を求めるだけのものではなくなりました
得体の知れない欧米社会とは異なる価値観の存在
取引も交渉も出来ない非対称な敵なのです
欧米の人間だけでなく、中東やアジアの人間も主要なプレイヤーとなって多極化した世界
欧米社会の約束事だけでない考え方で物事が進行する相対化された世界
誰も本当になるとは思っていなかったブリグジット、深まる中国との新冷戦、アフガンからの逃走にもにた撤退
そしてパンデミック以後の世界
いよいよ21世紀は混迷を深めてきました
前世紀とは全く違う世界です
なんでもあり、やったもの勝ちの世界なのかも知れません
ダニエル・クレイグ版の本作を含む5作品を土台にして、21世紀の007シリーズがこれから始まることが可能になったのです
エンドロールの最後のテロップ
「James Bond will Return」の意味はそういうことなのです
ダニエル・クレイグ版以降のジェームズ・ボンドとはどんな人物像なのでしょうか?
1990年頃の生まれ
つまり冷戦を知らない世代
10歳頃、911に強い衝撃を受け、テロ戦争の中で大人になり、2015年頃MI6に入った男
ブリグジット後の英国、中国との新冷戦どころか戦争の危機、香港や台湾の運命、パンデミックとその後、気候変動の激化と世界政治への影響
アフガン撤退とその前後
前世紀の物事がおとぎ話の世界のように思えるほど
そんな21世紀を揺るがすような物事の裏で、いま現在活躍している男です
21世紀がこれこらどうなっていくのか?
ミッションインポッシブルシリーズ、ボーンシリーズなど競合シリーズは数あれど、そういった事までを提示する映画は他にはありません
そしてそれができるのは007シリーズだけであることを本作が証明したのだと思います
全く新しい007シリーズはこれから始動します
大きなリブートになるはずです
ジェームズ・ボンド役もこれから決まっていくでしょう
監督は誰になるでしょうか?
恐らく公開まで4~5年はかかるはずです
2025年頃、新しいジェームズ・ボンドは帰ってくるはずです!