「この物語の後に始まる最大の悲劇」ナチス第三の男 ワンコさんの映画レビュー(感想・評価)
この物語の後に始まる最大の悲劇
この一連の事件の後、ユダヤ人の絶滅収容所送りが始まる。
女性問題で失脚し婚約者の前でメソメソ泣いていた男が、類まれな管理能力と諜報力を背景に、上昇志向と怨嗟でナチスの上層部に登りつめていく。
ハイドリヒにとって、鶏舎を襲うキツネを根絶やしにし鶏舎の利益を10倍にするのも、「ヨーロッパのユダヤ人問題の解決」、つまり、ユダヤ人を根絶してドイツの純化を実行するのも同じことなのだ。
映画では、ハイドリヒの描き方が少し軽めのように感じられるが、それは、この男が実はその程度で、原題タイトルの「鉄のハートを持つ男」と言われるほどの人物ではなかったと言いたいのではないだろうか。
ハイドリヒの息の引き取り方も、少し情けない感じだ。
原題のタイトルは、皮肉も込められているのだろう。
しかし、ハイドリヒの死後、彼が密かに書類にしていた計画は、ヒムラーらに引き継がれ、アウシュビッツの絶滅収容所が作られ、ホロコーストが本格化して行く。
チェコ亡命政府の主導した暗殺によって、憎悪が増幅したとか、憎悪が憎悪を呼ぶとか、色々な見方はあるが、このような悲劇を誰も予想できなかったはずだ。
レジスタンスとナチスの攻防の場面は緊迫感が伝わるし、命を賭して戦ったレジスタンスには胸が熱くなる。
ただ、忘れてならないのは、殺戮の狂気は、そんなちっぽけな人間のアイディアからでも始まるということだ。
日本民族とはとか、日本国のあるべき姿とか、教育勅語が日本の道徳だとかいうセリフを聞くと背筋が寒くなるのは僕だけではないような気がする。
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