「迎合か啓蒙か」飢えたライオン いぱねまさんの映画レビュー(感想・評価)
迎合か啓蒙か
感動に誘導する作品とは真逆のベクトルを持つ作品である。ドキュメンタリー要素を演出的に散りばめ、編集も細かいカット割で構成されている。展開されているストーリーはかなり不穏でヘビーなのだが、その顛末を徹底的に客観視で伝える方法だ。特に主人公妹の立ち位置はかなり注目される。
但、監督の意図が何処まで観客に届いているのかは分からない。
上映後のアフタートークでの解説や意図の説明がなければ間違った思い込みを誘発しかねない位の難しさを孕んでいる作品である。
登場人物達が総て感情移入を出来にくく仕立てあげられており、其処には優しさや安心感を一切排除されている世界で、リアリティをしっかり描く作り込みだ。作風として徹底的なのだが、そもそもの原因である、アップロードされた動画が一体誰が何のための所業なのかのフリが、ラスト前のニュース演出でのオチでは回収として乏しく感じる。そしてラストの主人公のハメ撮りのシーンのメイキングからの主人公のカメラ越しの訴える目のカットは、かなり複雑な演出なのではないだろうか? 監督の意図は『観ている観客も同罪だぞ』ということと思うのだが、そもそも説明がないと単なるメイキングシーンを挟み込まれて困惑が拭えないかと思うのだが、それは自分の能力不足なのだろうか…
アフタートークでも、現状の邦画の同質増殖問題(同じような内容ばかり)を憂いていたが、ならばいっそ、回収などせず、犯人の種明かしを仄めかす件はいらないと思う。現在の日本に於けるネット社会、とりわけ未成年の世界での扱われ方は目を背けたくなる程の残酷な日常なのだと暴露するコンセプトで良かったのではないかと思うのだが…。
この手の事件のテンプレを論理的に描いた事は称賛だが、少々スケベ心が働いたのかもと邪推してしまうのは、それだけコンセプトが秀逸だった事に起因する。
この手の意地悪な目線での捉え方は、成熟の度合いと比例するのではないだろうか。負の要素たっぷりの皮肉な作品をもっと日本人は肯定すべきである。現実は甘くない。そしてエンタメも辛い。夢は何処にもないのだぞ…