「大晦日の夜に燕尾服を着た彼が質問したこと」マイ・プレシャス・リスト bloodtrailさんの映画レビュー(感想・評価)
大晦日の夜に燕尾服を着た彼が質問したこと
トゲトゲハートの堅物女の子のトゲトゲが、イボイボ程度になるまでの話。
レディ・バードより、あっさりしてて、ちょっと子供っぽさはありましたが、面白かった。クスクス笑えたし、少しだけ泣けたりもした。
18歳でハーバードを卒業したキャリーは、職にも就かずセラピストに通うだけの「半閉じこもり生活」をNYで送ってます。父の友人でもあるセラピストは、年末までにやるべきこと、を書き付けたメモをキャリーに渡し、実行すれば何かが変わると言います。キャリーは否定しつつも、メモに書かれたことを実行するのですが、その目的は、「実行しても何も変わらないこと」を証明するためです。メンドクサイ女の子だよ、全く。
キャリーは、自分にウソをつけないだけの、12歳のハートを持つIQモンスター。人並外れた高いIQを持つ彼女は、批判的で攻撃的で自己主張を曲げません。友達も恋人もいませんが、欲しくないことは無さそうです。リア充を目の前にすると、自分の部屋にそそくさと逃げ帰るなんていう、かわいいところもあるし、自分の発言が他人を傷つけてしまったら、ちゃんと振り返ることはできます。
行動が変われば、気持ちが変わる。気持ちが変われば、考え方が変わり、生き方が変わる。セラピストにはわかっていました。キャリーはメモにリストアップされた内容を実行して行きます。一つ実行する度に、何も変わらなかったり、何かを覚えたり、思い出したり、怒ったり、哀しくなったりします。
最後の二つ、いや厳密には三つ。
返してもらえなかった本を取り戻してくれたのは、父親でした。14歳のキャリーをボストンへ送り出した父の愛を再確認。年末を誰かと一緒に過ごす。窓の外から彼女を誘った彼は、キャリーのミドルネームを尋ねます。アパートの避難ハシゴの上で、カウントダウンの花火を待ちながら。厳密には、実行されていなかったデートは、この後に実行されることでしょう。で、終っしまい。
バークリー、NYフィルのフルート奏者、と来たら、ジョン・コルトレーンじゃなくって、エリック・ドルフィーと来て欲しかったけど、彼のイケメンぶりが良い。クリスマスの夜に散歩に誘うセンスが素朴で最高。ってのと、本を積み上げたクリスマスツリーの前で、懺悔してるのかお祈りしてるのか判らないおしゃべりをするキャリーが可愛らしい。こんな娘が欲しかったよ、お父さんは。面倒くさいことこの上無さそうだけど。って思いました。
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追記
映画の主題は「行動を起こす事で生き方を変えよう」。Precious Listはキャリーの生き方を変えた大切なメモなので、そのままタイトルに。キャリーの変化のバロメーターになるのが「サイへの態度の変化」と言うか「軟化」と言うか「オトメ化」。家族愛の話でも、ただの恋愛物語でも、ましてや、精神性疾患を抱える天才の話でもありません。
レディバードは、「羽ばたくのは良いけれど、その前に自分が何者か、あなた自身を作り上げて来たものは何なのかを振り返ってみてね」がキーメッセージだった。
映画のつくりと主役キャラは、地味なマイプレ、アクティブなレディバード。主題は逆に、「動け」と「動く前に振り返れ」。勝手に比べて、面白いよなぁ、って思ってる。