「母ちゃんが疲れちゃいますから、それが一番困る」モリのいる場所 shimoさんの映画レビュー(感想・評価)
母ちゃんが疲れちゃいますから、それが一番困る
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映画「モリのいる場所」(沖田修一監督)から。
30年以上も、自分の家の敷地から出ないという、
伝説の画家・熊谷守一とその妻の生活を描いた作品であるが、
どうして、そんな気持ちになれるのか、とメモしていたら、
面白い台詞にぶつかった。
文化勲章を受けて欲しい、と電話連絡があった時、
受話器を持っている妻に「いい」とボソッと言いながら
「そんなもん貰ったら人がいっぱい来ちゃうよ」と付け加えた。
妻も「それもそうやね、いらないそうです、はい」とあっさり。
さらに、もっと広い土地に移ったらどうかと誘う人にも、
「私、ここにいます。この庭は私には広すぎます、ここで充分。
それに、そんなことになったら、
また母ちゃんが疲れちゃいますから、それが一番困る」
とにかく、愛する妻と一緒に、のんびり過ごすことが望みで、
あまり有名になって、多くの人が訪れることになり、
大切にしてきた今の生活が変わることが一番困ってしまう、
そういうことなのかな、と思ってメモをした。
監督が伝えたかったことは、守一の好きな言葉「無一物」。
禅語「無一物中無尽蔵(むいちもつちゅうむじんぞう)」の一節、
「無一物」とは何も存在しないということであるが、
何ものにも執着しない境地に達することができると、
大いなる世界が開ける、という意味らしい。
「何もないからこそ、そこに豊かさを見出せる」ってこと。
静かだけど、素敵な作品だったなぁ。
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