スリー・ビルボードのレビュー・感想・評価
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人間の不完全さとアイロニー
娘を犯され、殺されたミルドレッドが出した3枚の看板広告から始まるストーリー。
ミルドレッドの不器用で攻撃的な性格がもたらすストーリーは、なかなか見ていても辛い。登場人物たちも然り、人間の不完全さとアイロニーが、この作品のテーマであるように思う。
ディクソンが飲み屋で見つけた看板の犯人は、おそらくビンゴだったのだろう。砂の多い場所とはきっとシリアあたり。帰ってきた米軍の軍人が犯した罪を国の力で無いものにしたのか?それをウィルビー署長は知っていたのか?ディクソンも後からそれに気づいたのか?ミルドレッドも分かっていたのか…?
レイプ、黒人差別、DV、同性愛、障がい者…ストーリーに散りばめられた弱い立場と強い権力に対する提起が、スリービルボードには込められている。
上手いのは分かる
映画として上手いというか、最高レベルに上質なのは分かる。
ラストシーン、そういう着地の仕方で感動させられるのかって斬新さもある。
特にディクソンの成長は個人的にすごく感動した。
ただね、日本人の自分としてはやっぱりちょっと「よその国のこと」感があるというか。
もちろんアメリカの問題を描いてる作品だから当たり前なんだけど、
すごくキリスト教的な世界観とか、キャラクターの行動原理みたいなものに
共感しにくい部分が最後まで気になった。
田舎の警察署長が、馬を2頭も飼えるほど裕福なのか?とか
あの看板を思いつきで燃やすって、灯油かなにか常に持ち歩いてんの?とか
ちょっとメタファーを詰め込みすぎて、嫌味になっちゃった印象。
繰り返すけど、映画として上質なのは間違いないし、感動的でもあるんだけどね。
日本でもスリービルボードの物語が現実に起こりました
極めて抑制されていながら圧倒的な演出と演技
とんでもない名作としかいいようがありません
静かに深く圧力を高めていく怒り
強烈な印象か残りました
お話は復讐です
罪を購わせるために行動しないものは犠牲者が殺されるのを見ていながら見ない振りをしたと同じだと告発する物語です
映画のお話、アメリカの南部のお話
ついこの間まではそうでした
しかし今は違います
日本でもスリービルボードの物語が現実に起こりました
東池袋での痛ましい暴走事故
何人もの人々が轢かれ、母と子ども達は死にました
しかし犯人は逮捕されないのです
犠牲者の夫がはじめた犯人への厳罰を求める署名運動は正にスリービルボードです
正義が成される為に行動する
深い怒りに共感します
感動に震えました
魂を揺さぶる名作
個人評価:4.8
魂を揺さぶる名作。
わずか2時間に満たない作品だが、全ての登場人物が人間味にあふれ、魂が燃えている。心に訴えかけるような演技は、すべてにおいて嘘がない。本作でオスカーが2名出ているのも納得である。
1人の少女の死が、南部の田舎で暮らす人々の人生を狂わせ、燃えるような魂のぶつかり合いへと向かう。人間讃歌がこの作品にはある。
最後のアイダホに向かう車中での2人の会話。
「どうするかは道々決めればいい」。
人生の哲学を物語るような締めくくり。いつまでもしめつけるよう心に刺さる。
わかりやすくないところが魅力の映画
全体の雰囲気とかそれぞれの場面、演技がよい。
怒りは怒りしか生まない、このへんが一番わかりやすいテーマのようで、しかし、そう思って見てると、それだけでもなさそう。テーマを簡単に決めつけないほうがよいのかもしれない。
主人公の心の傷を埋めようとする行動が、まわりの人間を不幸にしていく側面を持っていて、ただ、主人公の救いを描いているわけではない。署長、その家族、広告屋、警官など、がとばっちり。しかし、その後に許すことも描いている。ラストもその両極のあいだをどっちつかずで漂って終わる。。
まあ、そんな、わかりやすくないところが魅力の映画。
アメリカ南部の文化の知識ありき
物語は、娘をレイプして焼殺した犯人を捕まえるために母親が、警察のケツを叩くために3つの広告看板を設置するところから始まる。
娘を惨殺された母親、死が近い警察署長、使命感を履き違えた警官。
黒人差別・虐待が未だ色濃く残る片田舎で、娘を惨殺した犯人が捕まらないイラだちから、警察すら敵に見えてしまった母親。
死が近くなったが故、自分の価値観が時代の変化(例:人種差別に対する見解)を認め始め、『周り』が見え始めてきた署長。
幼い頃父親を亡くし、母親に溺愛されながら育ったため、ティーンエイジャーがそのままバッジを持ってしまったような警官。
ビルボード=屋外広告の看板や掲示板。
広告看板は、
「見てほしい」から設置する「=関心を持ってもらいたい」、ということ。
この3つの広告看板のようにこの3人には、自分を「見てほしい」理由があった。
未解決事件を、死にいく自分を、自分の行いを「見てほしい」。
未解決事件に、死にいく自分に、自分の行いに「関心を持ってもらいたい」。
だから、母親は諦めなかったし、署長は手紙を書いたし、警官は目立つような行いをした。
そして、自分を「見てもらった=関心を持ってもらった」3人は、ほんの少しの安らぎを得る。
ラスト、若い警官と母親が一緒に出かけたことは、単に改心した若い警官を許したのではなく、互いの共通点を無意識で感じていたからだと思う。
(この人は私に関心を持ってくれている)と、愛にも似た説明し難い、まだ名前のない感情が、2人をつなげた。そんな気がするラストでした。
おもしろかったです。
自力では気づけなかった、常軌を逸した作り込み。
心理描写と人物関係の描写が秀逸。舞台設定もいいですね。小さな町だから住人みんなが署長を知っていたり。広告代理店が警察署の向かいだったり。
「怒りが怒りを来す」作中のキーワードだと思います。怒りの連鎖でどんどん悪いことが起こっていく。どうしようもない苦しみ、怒りのやり場がない時、どうすればいいのか。見ていて苦しくなりました。
署長の自殺からぐっと話に引き込まれていきました。遺書がまたどれも良く、彼の人柄が表れていました。街の人の反応を見ていても、彼が本当に慕われていたことがわかります。
多少過激ながらミルドレッドが車にコーラを投げつけてきた学生を懲らしめる場面は、頼もしい母親だなと思いました。おそらくスリービルボードの件で前々からロビーは悪く言われたりしていたんでしょう。ミルドレッドがロビーにシリアルをぶっかけるシーンもありましたね。あれ普通はもっと怒るところだろうと思ったんですが、母なりの励ましというか、喝を入れたのだとわかったのでしょうか。家族だったり、お互いをわかり合っている関係だからこそできるやりとりっていいですよね。
登場人物がみんな人間らしいというか、善悪はっきりせず、いいところも悪いところも持ち合わせているのがリアルで、本作の社会派な内容ともマッチしていました。
特にディクソンは、前半は悪いところが目立つのですが、遺書を読んでからはいい部分も見えてくるのが素敵でした。
ディクソンがアンジェラの事件に関するファイルを抱えて命からがら炎から脱出するところや、容疑者の車のナンバーを冷静に確認して、暴行を受けてでも皮膚を採取するところも心を打たれました。警察署に火をつけたのがミルドレッドだとわかっていても口にしなかったり、署長の見立て通りだったのが嬉しい。
ディクソンとは気づかずに優しい言葉をかけるレッドにきちんと謝って、レッドが複雑な心境ながらにオレンジジュースを置くところもすごく好き。許すって難しいけど、許すことで結局は自分も救われるってこともあるんじゃないかと思います。ミルドレッドはずっと許せなくて苦しんできたわけですし、自責の念もあったのだろうと思います。
スリービルボードが燃えてしまって、作り直すところも微笑ましく、いいシーンでした。署長が出資してくれたことで、スリービルボード自体も抗議のためという怒りの意味から、娘のためにも署長の名誉のためにも守りたいものというような、いい印象に変わったことも良かったです。
そしてそれを燃やしたチャーリーを許すところも。前のミルドレッドであれば確実にワインの瓶で頭ぶったたいていましたよね。
虫や鹿のシーンもいつもふてぶてしいミルドレッドの優しさが垣間見えたように思います。人にはああいう面を見せないから誤解されることも多そう。誤解されても意に介しなさそうですし。
ペネロープもちょっと天然なところがありそうだけれど、純真そうで可愛らしかったです。苦しい展開の中で彼女が出てくると気が抜けるので、癒しの存在でした。でもなぜチャーリーと交際しているのか…その点で言えばあまりいい印象は持てなかったので、チャーリーのいい部分も描いてくれたら説得力が出たかも。
署長の奥さんと娘達のその後も気になりますね。少しずつ受け入れられればいいのですが。
みんなそれぞれに異なる事情を抱えていて、時にぶつかり合って、支え合って、思い合って生きていく姿が心に沁みました。
演技面も静かな中にも強い感情を込められていて、みなさん素晴らしかったです。おかげで涙腺ゆるゆるでした。
自分をちゃんと見てくれる人の存在やその人の言葉で、人はいい方向を向いていけるのかなと考えさせられました。私も人の悪いところを受け入れ、良いところを探して好きになることを心がけたいものです。
どういう終わり方をするのかとずっと頭の隅で思っていたら、なかなか他では見ないような終わり方で、新鮮でした。ドラマティックにならないのは本作らしくて良かったと思います。
事件が解決したわけではないけれど、少し気が晴れたような。「道々考える」中で少しずつ明るい方向に向いていきそうな雰囲気が好きでした。2人が一度対立したにもかかわらず、最後は一緒に旅に出るのも素敵でした。
署長とミルドレッドの関係もなんとも言えない良さがありましたね。繊細な人間関係が本当に上手いです。
国外で起こった事件では逮捕できないっていうのもおかしな話ですよね。2人とも「あんまり」でしたし、直接的な方法は取らない…と思っておきます。天気も晴れていましたし、光が差す方へ進んでいくという示唆だと考えたいです。
と、長々とごちゃごちゃ書いてしまいましたが、ここまでは初見での感想です。
私は鑑賞後にとても詳しく解説してくださっているサイトを見つけました。ちなみに『ライアーライアー』の解説でもお世話になったサイトです。
そちらを拝見すると、まさに目から鱗が落ちることばかりでした。私が本作に込められた意味を理解できていないことで受けた違和感の全てを解説してくれました。とはいえ、聖書や英語に詳しくないとこれは気づけませんね。原題『 Three Billboards Outside Ebbing, Missouri 』の意味や、曲の意味、ペネロープのことまで。次回観る時にはブラックユーモア版のアンジャッシュのコントのようにも見てみたいと思います。泣くほど真剣に観ていたのに…実はコメディにも取れるとは…。上記のレビューが一部恥ずかしくなりますが、初見の反応として残しておきます…。
拝見したサイトはとても素晴らしかったですが、それが全てではありませんし、絶対に正解というわけでもない。観た人それぞれで色々な見方ができる懐の深い作品ですね。
知ることで見方が変わるという点ではコーエン兄弟の『ファーゴ』に似ていますね。彼らもブラックユーモア好きな印象です。フランシスマクドーマンドも出演していますし。本作は特にコーエン兄弟の作品と演出の作り込みに類似点が多いようです。
マーティンマクドナー監督の作品は同じくブラックユーモアやバイオレンス面でもタランティーノ監督作に似ているという声もあるみたいですね。
自力では気づけなかったですが、本作は作り込みが半端じゃないです。そして自分の先入観や偏見についても考えさせられました。是非鑑賞後に解説を探してみてください。
解説を見る前でも舞台設定、心理および人間関係の描写、演技面で星4評価を考えていたのですが、解説を読んだ後は星5以外は考えられませんでした。細部までこだわった素晴らしい作品です。
オセロ
アカデミー作品賞は受賞できなかったが、フランシス・マクドーマンドが主演女優賞、サム・ロックウェルが助演男優賞、ウッディ・ハレルソンもノミネートされていた。今回の受賞は、まさに正鵠を射ていると思う。
良いは悪いで、悪いは良い
これは、映画にも出てきたシェークスピア作品のセリフ。
善人はこの世で多くの害をなす。
彼らがなす最大の害は、人びとを善人と悪人に分けてしまうことだ。
・・と1年、下書きを放っておいたことに気づいた。
サム・ロックウェルがブッシュJr.をみちゃったため気づいたのだった!笑
陥りがちな人生の縮図
主人公のミルドレッドの雰囲気は好きじゃない。
主人公や登場人物の一つ一つの行動は
良くないと分かっていても、
したいと思う気持ちはわかる。
だがそれをしたって結局ハッピーエンドにはならないということ。
人間の中にある感情を表現してくれている映画だった。
ヒューマニティーのコントラスト
人間の愚かさと、強さをコントラストとして描いた良作。
この映画を語るなら、どうしても”Fargo”を話しておかなければならない。コーエン兄弟の最高作品とも言われる、人間のあまりフィーチャーされない人間臭さをテーマにした作品。その”Fargo”もミズーリの田舎町ファーゴを舞台にしている。
この映画は、その2017年代版。コーエン兄弟に劣らない強烈なキャラクターの作り手。ストーリーはささいなことを巡ったあまり現実では考えられないような暴力の誇張された世界を描いています。この作品のすごいところは観ないと伝わらないコメディとドラマ。
キャラクターを築き上げるうえで、大切なのは、疑問と解決。シリーズものでない限り、映画の中でのキャラクターは最初は誰も知らない。「このキャラクターはどういう人物なのだろう。」「何を考えているのだろう。」など視聴者は必ず疑問から入ります。その疑問でどこまで振り切れるのかというのは脚本家の力だと思います。視聴者を遠ざけるような、意味不明の言動を避けながらありきたりな、見たことのあるようなキャラクターを避け、ユニークかつ興味の湧くキャラクターを最初の30分で作り上げられるかがとても重要。この作品はそれが完璧。超有名な超実力派の俳優たちをキャスティングし、リッチなキャラクターを作り上げていました。どのキャラクターも100%愛せるわけではなく、どこか他の人と違った感情のツボがある。タイトルにもなっている3つの看板を建てたメインキャラクター、ブチギレて向かいの看板屋の青年をボコボコにし、窓から突き落とす警官。その少し視聴者からは距離の遠いキャラクターも、町外れの小さなエリアで起こる事件やいざこざを通して少し不器用にも交わることで、人間らしさ、表には見せない人の良さというものが現れてきます。その絶妙な距離感とコントラストがとても好き。
どこまで現実なのかはわからないが、このようにフィクションであることは観ていてわかるのに、映画を見ている途中には、そのフィクション感を忘れている自分がいるのが、エンドロールに気づかされる。その映画を映画として観れる映画が好き。
すべての人を愛する
「復習はしない」
「隣人(すべての人)を愛する たとえ敵であっても」
というキリスト教の教えと同じ考え方を扱った映画ですが、宗教的な部分はなく、押し付けがましいところもありません。
この映画に出てくる中心的な登場人物は、良いところと悪いところがある普通の人というより癖の強い困った人です。ですが、彼らが上記の考え方を実践すると・・・。
皆が相手を批判したり攻撃するのではなく愛を示し助ければ、どんなに良い世の中になるでしょうね。単純な理屈ですが、それを強く印象付ける映画でした。
本当に良い映画です。
現代のアメリカを象徴する映画
久しぶりに骨太のいい映画で心に染みました。
「今」のアメリカをいい意味でも、最悪な意味でも映し出しているような気がした。
正しさ、誤り、生きて行くこととは何かを問いかけて来ます。
ラストも個人的には、人それぞれが選択することだと伝えている気がした。
またひとつ、何度も観たくなる映画が増えました。
予想を裏切る見事な展開
先入観からくる予想が次々と覆されて、ラストまであっという間でした。
決してわかりやすい話ではないのですが、後味は悪くなく見事な脚本に拍手喝采したい気分。
アメリカ南部の閉鎖的コミュニティ、ヒルビリーと呼ばれる層を通して、登場人物達が実に人間臭くよく掘り下げられているのも見どころに感じました。
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