「サブカル的美術が魅力のオサレなファンタジー」シェイプ・オブ・ウォーター ヨックモックさんの映画レビュー(感想・評価)
サブカル的美術が魅力のオサレなファンタジー
町並みや部屋の内装、さまざまな小物や服装のすべてが最高にオサレなオールドアメリカン風味ファンタジー。
特に主人公と隣人の部屋は家具や食器のデザイン、窓際に良い感じに積み重ねられた古本など全てが計算されつくされた不自然極まりないファンタジーなカッコよさに溢れていて、この様式美はヴァニラウェアのゲーム作品とか、もしくはあくまで傾向で言えばpixivにごろごろ転がってる陳腐な妄想ファンタジー世界のそれに近い。(もちろんディティールのこだわり具合や埃臭さまで再現したデルトロのそれとはセンスが別次元ではあるのだが)
オタクの心をきっちり掴んだファンタジーデザインならば、デルトロの右に出るものはいないのだろう。
上記のデザインに加え、オープニングから引き込んでくれる素晴らしい音楽。この2点に、本作の価値の8割くらいが集約されているように感じる。
サブキャラクターは皆愛らしく、主人公が一番感情移入が難しかった。孤独で卑屈な隣人の画家のいじらしさや、自分の信念に生きて死んでいったソビエトのスパイももちろん、任務に忠実で冷酷なサディストと思われる軍人にも、可愛らしい子供との交流や妻との生々しい情事や新車を買ってニヤけるシーンがあるお陰で、都合の良い“悪役”役のサイコ野郎ではない、人間らしい厚みがあったのが印象的だった。そんなクセの強いメンツの中にあって、快活で素直にイイ奴だった黒人の同僚が本作の良心である。
導入部分には強烈な違和感を覚えた。ひどく雑。ただの掃除婦の主人公が、半魚人に餌付けをするまでのステップがあまりにもぶっ飛びすぎていて、その後の交流をするシーンにまでモヤモヤが尾を引く。「言葉が通じない者同士のシンパシーを感じるから」という動機はわかるのだが、ゆで卵の餌付けに至るまでのきっかけとして何かしらのイベントが欲しかったし、音楽プレイヤーを持ち込んで交流を深める前後のダイジェスト的なシーンもあった方が良かったように思える。
現代でこそ、あんな半魚人が見つかったら目にするヒトは皆大騒ぎするのだろうが、まだ宇宙人やUMAといったファンタジーがギリギリ息づいていた冷戦期のアメリカだからこそなのか、あんな異形が(驚くべきものとされつつも)すんなり受けいられていることに、観ていて違和感を覚えなかったのが面白かった。
デルトロはパンズラビリンスでやらかしているので、ラストシーンもギリギリまで「あぁ、またやりやがった…」と思ってたものの、きちんとハッピーエンドにしてくれていて良かった。自分は悲劇も大好きだが、しかし本作にそれは似合わない。
軍人も喉を潰されただけで生きているらしいのが、また心地の良い終わり方だった。あそこで半魚人が軍人を残酷に殺害していたら、きっと穏やかな気持ちで映画を見終えることはできなかったかもしれない。
半魚人奪還のくだりはベタながらドキドキしながら見れた。
猫の首なし死体もきっちり妥協なく描く。これぞデルトロ。
全体的にエロい。そしてエロさが変にアーティスティックではなく生々しい。なんか汚い。
そもそもファンタジーは、その大枠で大嘘をついているジャンルだからこそ、何かの要素で強いリアリティを持たせなければならない。本作におけるそのリアリティのあるフレーバーこそが、エロ要素だったように思える。
陰毛ぼぁー。おちんちんは勃起すると生えてくるのか。