劇場公開日 2018年3月1日

「綺麗事ではない恋愛映画」シェイプ・オブ・ウォーター アラカンさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5綺麗事ではない恋愛映画

2018年3月4日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

怖い

字幕版を鑑賞。1954 年公開のモノクロ映画「大アマゾンの半魚人」のリメイクだそうであるが,物語は前作の原型を全く留めていないので,キャラだけを拝借したというだけのように思える。監督は,パシフィック・リムやカンフー・パンダ2などを手がけたメキシコ人監督である。この監督は非常に日本のアニメや特撮にハマっている根っからのオタクだそうで,前回の来日時には日テレの番組に出てバルタン星人の等身大フィギュアを贈られて歓喜していたが,今回の来日ではピグモンを贈られて早速インスタに写真をアップしていた。

米ソ冷戦真っ只中の 1962 年に半魚人相手に恋愛映画を作ったらどうなるか,という発想が全てと言える作りであるが,この映画の恋愛というのは全く綺麗事ではなく,性愛を伴うものを意味している。米軍の特殊な研究施設の掃除婦として働いている声帯を失って声の出せないヒロイン,ヒロインが暮らすアパートの隣室の初老の画家,ヒロインの上司,いずれもそれぞれ特殊な性癖の持ち主であり,それぞれが赤裸々に描かれている。子供向けでないシーンがいくつかあるので,お子様連れでの鑑賞はお勧めできないし,デートにも向かないのではと思う。

脚本も自分で書いている監督の想像力は桁外れのものがあるようで,ミュージカル仕立てになっているパートまで出て来たのには唖然とさせられた。表現の幅は観客の期待以上に広かったと言える。ただ,半魚人の特殊能力はかなり盛りすぎという印象を受けた。あそこまで意思疎通ができるなら,喋っても全く不思議ではないのではと思った。こういうテーマの映画はアカデミー受けするので,作品賞候補になったのだろうと思われる。

冷戦時代の雰囲気は非常によく出ていたと思う。ソ連が崩壊してからは,表面上冷戦が終結しているので,あの雰囲気がわかる人はすでにかなりの年配者ということになる。共産主義を至上とし,祖国ソ連のためにはアメリカでのテロなど平気で起こす人物がかなりいて,ケネディ大統領を暗殺したとされるオズワルドなども容赦ない決めつけがなされていた。ソ連で暮らしたことがあるというだけでテロリスト扱いされても不思議でない時代だったのであるから,ソ連からの留学生などという立場では怪しまれて当然という立場だった。

特に印象的だったのは,ヒロインの上司にあたるストリックランドの物の考え方である。人間は,神がご自身と同じ姿に作られたもので,女より男が偉く,黒人より白人の方が偉いのは当然という価値観の持ち主で,自分の考え方を疑ったり客観視することができない人物である。これまた冷戦時代のアメリカには掃いて捨てるほど沢山いた。トランプ大統領などは,その典型のようにも思えるので,この映画を通じて大統領を批判しているのかも知れず,業界丸ごと反トランプという映画界で評価が高いのもそのせいなのかも知れない。

ヒロインは最初ひどく風変わりなおばちゃんに見えたのだが,話が進むにつれてどんどん魅力的に見えて行ったのが不思議だった。ベテランのアレクサンドル・デスプラの手になる音楽の出来も良く,監督の演出も非常に冴えており,ヴェネツィア国際映画祭のコンペティション部門で上映されて金獅子賞を受賞したというのも頷ける出来上がりであると思う。ただし,アカデミーやコンペティション受けする作品が面白いかというと必ずしもそうではないことがある。私には,昨日見た「ゲット・アウト」の方がはるかに面白く感じられた。
(映像5+脚本4+役者4+音楽5+演出4)×4= 88 点。

アラ古希